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「分かりました。ヴィルヘルミーナ様に関しては、それでいいとしましょう。問題はあなたよ」
「全然切り上げてねえじゃねえか!」
女王然とした雰囲気を纏うよう、その演技を意識しながら、私は厳かに宣言する。
「今まではヴィルヘルミーナ様の話だったでしょう? で、ヴィルヘルミーナ様への姿勢は理解できました、私にも。……だから別の話。あなたが結婚もしないでいつまでもふらふらしていると、縁者としては困るの。だから、あなたが自分の人生をどうしたいのか、今度はそれを伺ってもいいかしら?」
ヨハンは気がついていないかもしれないが、公宮のメイドたちの主要な関心対象は、今やエックハルトよりもヨハンだ。元平民の準貴族で、さらには公妃の縁者ともなれば、平民の女性の玉の輿候補としては最適だ。そんなわけでヨハンは狙われているのだが、ヨハンが相手にする、というか気が付く様子すらない。昔は女の子と付き合いがそれなりにあったような気がするのだけど、歳とともに内気になっていくのがこの弟の気質らしい。でもそんな身持ちの固さも、結婚相手として考えるには肯定的な材料ということらしい。口の悪さだけが玉に瑕だけど。
「だから!」
そう叫んでから黙って、それからヨハンは自分のズボンの裾を少しだけ捲り上げる。そこからは彼の義足の先端が見えている。
「ヴィルヘルミーナだろうが、別のどこの女だろうが、誰かの負担にはなりたくない。そう言っているだろう、いつも」
「うーん。ごめんなさいね。でも、女性ってそういうものではないと思うんだけど」
私は柔らかめに疑問を呈することにする。肉体的な優越性は確かに世の中の女性の関心事だと思うけど、その点をとっても皆がただ一つの軸で評価しているとは私は思わない。足のことはあるけど、背がとても高くて、顔立ちもそこそこ整っているヨハンは現に人気があるし、他には手に職をつけていることや身分があること、知的能力もプラスの材料だ。
「分からないんだよ、経験したことない奴には。のろのろとしか歩けない自分を、周りの奴らがさっさと追い越していく感覚も。それから、全身に罅が入って割れていきそうな痛みのことも」
口調は強いけど、ヨハンはどこか、懇願するような表情だった。
私は黙る。
そうだ、このヨハンの足のことは、私の責任でもあるのだった。
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