ケミーと雨降りレース

1/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

ケミーと雨降りレース

 ここは日本の、とある場所。  石がゴロゴロし、ところどころ茫々と雑草が生えた河川敷で、僕たちはひたすら準備を続けていた。  なんの準備かって?決まっている、僕たち“カエル”にとっての一大行事、雨降りレースの準備だ。  ああ、紹介が遅れてしまった。僕はこの河川敷を縄張りとするカエルの群れの一匹、カエルのケミーである。とうぞよしなに。 「ケミー、誰に向かって話してるんだ?」 「何でもないよダティ!」  せっせと石を運ぶ父さんに、僕はひらひらと手(という名の前足)を振ってみせた。  実は僕には、特別な能力がある。そう、この話を読んでいる君。君の姿が僕には見えているということさ。何故なら僕は、前世で人間だったのだ。だから人間の文化に関しても詳しいし、人間の文字も読めるし言葉もわかる。カエルの中でも特別なカエル、特別賢いカエルだ。そして、こうして液晶画面ごしに、僕の姿を見つめている読者の姿も見えているというわけ。どうだ、凄いだろう?  まあ、普段は自分が童話の登場人物とわかっていても、読者に話しかけたりなんてしない僕だけれど。今回だけは特別だ。なんせ、人間のみんなにお願いしなければいけないことがあるのだから!  あ、僕の目には君は人間に見えているけれど、もしも人間以外の何者かであったなら人間たちに伝えてくれないだろうか。六月、この時期に僕たちがやっている雨降りレースのことを。  カエルという一族にとって、とても大切なイベントがこの時期にあるということを。――そして、人間に邪魔されると大層困るということを。  どういうレースなのかって?  それは、今からじっくりしっかり、説明させてもらうことにするよ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!