謎アイテム アンド ドリーム

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謎アイテム アンド ドリーム

 ……あれはたしか数ヶ月前のこと。反抗期真っ只中の僕は、ここ最近親と会話していない、というようなときだった。  その日はリズムゲームアプリの練習に励んでいた。最高難度の曲がもう少しでフルコンボだ、と歓喜していたのに突然母親が僕の背後から「ねぇ」と話し掛けてきた。耳元から声が聞こえたもんでほんのちょっとだけビビってしまい、お陰様で流れてきたノーツの一つ右をタップしてしまったのだ。 「ねえちょっとジャン。これ見てよ」 「はぁ、何だよババア……あ?」  今日も(親に対して)喧嘩吹っ掛けようかと立ち上がって睨み付けた刹那、僕は呆然とその場で棒立ちした。何故なら母親は、謎のボックスのようなものを手にしていたのだから。真っ白い立方体の箱。見た目から読み取れる情報は、それっきりだった。 「はっ……何だよそれ?」 「ユメックス・メーク、って商品。近頃ニュースで噂になっているわよ。知らないかしら」 「し、知ってるけど、何だよ」  流行に乗り遅れていた事実を否定するため、小さな嘘を付いた。にしてもただの箱が商品だと? 詐欺じゃねえの、詐欺。集団で騙されているんじゃねえか? 「これに見たい夢の情報、ってやつをセットするの。そしたらこれをね、ベッドの横に置いて寝る。するとあら不思議! その夢の世界へと飛べるのよ!」 「……はぁ?」  夢を見てるのはどちら様だよ。母親の癖だ。本人曰く、摩訶不思議な新商品は購入したくなる性分らしい。  どうせ、あれみたいなものだろ。枕の下に自身が望む夢を描いた紙を挟んで寝たら、その夢が見れてわーい、ハッピー! ってやつ。やっぱり子供騙しなインチキ商品だ。 「でね、試しに使ってみたら効果は抜群。私の大好物を沢山食べるって夢、最高だったわ」 「大好物、ねぇ」  …………もしその話が本当ならば、夢では何でもかんでも好き放題やれるのだろうか。誰も騙せないようでは詐欺師にも少し気の毒だし、しょうもないトラップに引っ掛かったことにしてあげるのも、ある意味一つの優しさじゃないか。 「はぁ。仕方ないな、一回挑戦してあげるか」  そしてその晩、ユメックス・メークと連動しているスマホアプリを立ち上げ、「キーワードを入力してください」という欄に僕好みの夢を打ち込んだ。「村」「村人」など、その他諸々……。  僕は設定を終えるとスマホの電源を切り、ベッドで横になった。尚、夢から覚めたいときは、夢よ終われと願えば良いらしい。  ……で、これでキーワードに関連した夢の世界にワープ出来ると? そんなSFっぽいストーリー、信じられるものか!  そう思いつつ、僕は徐々に夢の世界に入り込んだ。そこで見た景色により、狐に化かされた気分になったのはここだけの話。  それからというものの、僕はこの箱を一週間に一度のペースで使用するようになり、すっかりユメックス・メークの愛好者になったのだった。  そんなとある日。この日の夢の中には、一匹の羊がこちらを凝視していた。やがて羊は「着いてこい」と行動で伝えようとしたのか、いきなり走り出した。このまま何も無い草原に居るよりは羊を追いかけ回す方がよっぽどマシだ、と僕は何となくその羊を追いかけだしたのだった。
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