村人に紛れた旅人

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村人に紛れた旅人

 ……とても愉快な夜だった。双子ちゃんと正々堂々ババ抜きをしたり、テールさん特製の牛肉をふんだんに使用したミートスパゲティを頂いたり、「布団がこれしかないのですよ」と一つの大きめな布の中で五人がぎゅうぎゅうになって寝たり。  今までの夢の中……いや、人生の中で、トップクラスに幸せな一時(ひととき)だった。 「それじゃあ、ありがとうございました」  そして夜が明け、僕はユジローさん、テールさん、ミコナちゃんとミコラちゃん(そっくりすぎてまだ見分けられてない)に別れを告げ、ドアを開けた。と、下半身にずしりとした重みがかかる。突然のことに、僕にだけ重力が強くなったのか!? と冗談交じりなことを思いながら背後を確認すれば、双子ちゃんが腰に抱き着いていた。 「もっと一緒に居て!」 「一緒、一緒!」 「二人とも。……すみませんねぇ、やんちゃな子達で」  ……正直言うと、双子ちゃんが引き止めてくれて嬉しかった。僕も本当はもっと。 「僕もここに居たいです」 「……え?」 「えーっと、これから別の村に行く予定だったんですが、ここで過ごした一夜が楽しくて。本音としてはもう少し皆で遊びたいなー、なんて」  この夢の続きをみたいんだ。こんなに最高な夢、まだ終わらせるわけにはいかない。 「えぇ、是非是非! 暫くよろしくお願いしますねぇ、ジャンくん」 「こちらこそよろしくお願いします!」 「……よろしくね」 「やったー!」 「やったー!」  こうして、僕はこの村に居座らせてもらうことにした。  居座らせてもらうにあたって、毎日この家や牧場のお手伝いをさせていただいた。「流石に農作業はキツイよ……」とテールさんからストップされたが、僕は「大丈夫です!」と無理矢理彼女の心配を押し退けた。  確かに全身筋肉痛にはなるし誰か助けてくれと悲願したことは両手で数えきれないほどだったが、その分やり遂げたときの達成感といったら! 僕は凄まじい快感に襲われた。 「ユジローさん、羊ちゃん達へ干し草あげてきました」 「ありがとう、仕事早いねぇ」 「この調子で畑の雑草むしりもしてきます」  僕は小走りで畑(といっても小さな家庭菜園みたいなもので、現実世界では見たことがないような野菜ばかり育てている)へ向かう。  雑草を根本から引きちぎっていると、誰かが話し掛けてきた。それはお隣さんのおじいちゃんだった。 「ジャンくん、こっちの畑仕事も手伝ってもらえないかい? それ相応の報酬はあげるからさ」 「報酬だなんて、とんでもない。ただのボランティアですよ」 「いやいや。感謝の気持ち程度だよ、いつもありがとうって」  僕は半月ほどで村人との友好関係も築いていた。他にもテールさんとお菓子作りをしたり、双子ちゃんに構ってあげたりし、僕は着実に村の仲間として馴染んでいった。  ……こんな感じなら、一生夢から覚めなくてもオッケーかも、なんてね。
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