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羊は、ラム肉になった
それは、翌日の暁の話だった。
「起きろ、誰か起きろおおぉ、誰かああああ!」
誰かの叫び声が目覚ましの代用となり、僕とテールさん、ミコナちゃん、ミコラちゃんが起床した。ユジローさんは……居ない。
テールさんがパジャマ姿のままで外へ飛び出すと、ドアの先では一人の男性が歯をガチガチ言わている。彼は血の気が引いたかのように蒼白な顔をこちらに向けていた。
「テールさん、牧場前に来てください……一刻も早く!」
「な、何か急用でも。それより、自宅に夫が居ないんで、」
「そのことだよ! 正しくユジローさんに関連することだ! ユジローさんが、ユジローさんがっ」
「夫に何が?」
「ユジローさんが血塗れで倒れていたんだよ!」
僕がハッとした瞬間には、テールさんは電光石火の如く牧場へと向かっていた。僕もテールさんの背中を見失わないようにしながら、牧場へと走る。
といっても牧場は徒歩一分もしない距離なので、全力疾走で十数秒ほどで到着した。ユジローさんは……と辺りを見渡していると、テールさんの劈くような甲高い悲鳴が、村一体の空気を切り裂いた。
悲鳴の聞こえた方向へと駆け寄ると、そこには無惨な姿となったユジローさんが倒れていた。腹付近の肉が抉られている。
「ユジロー……ユジロー……」
テールさんは子供を宥めるときみたいにユジローさんに問い掛ける。返事はない。状況からして死んでいるのは確実なのに、テールさんは話し掛けるのを止めない。
すると先程の男性が駆け寄り、肩で息をする。
「……この村にも怪物が出現してしまったのか」
「んなわけねーだろ! まずまず貴様は死体の第一発見者なのに、何故すぐに救急処置を施さなかった。人を呼んでくる間にユジロー君が死んだ可能性だってあるだろう」
「そ、それは。……俺だけで重傷を負っていたユジローさんを助けられるとでも?!」
後から続々と村人がやって来て、口々に憶測を話し出す。その内の二人は、ミコナちゃんとミコラちゃんだった。片方が驚愕し尻餅をつくと、もう一方が手を震わせながら片方の手を取る。
「……つーかよぉ。一番怪しいのは放浪者のテメーじゃねえのかよ」
突然、村人の一人が僕を突き飛ばす。腕から地面に突っ込み、そこに擦り傷が出来た。
「他村でも怪物の目撃情報が相次いでいるんだよ、バケモノ。テメーが皆を殺しているんだろう、そうだろう。とっとと死ねよ馬鹿!」
「確かになぁ。ジャン、信じたのになぁ」
「ぼ、僕はそんな―――……」
「違います!」
嗚咽混じりに叫んだのは、テールさんだった。涙や鼻水で顔をぐしゃぐしゃと崩している。
「この子が人を殺めるわけがない。この子は私の恩人であり、家族です。……ジャンが犯人だと考える者は、私の方を疑いなさい! そして、勝手に怪物だと勘違いした貴方も怪しいでしょう」
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