そよ風みたいに

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 彼女がとても好きだった。  初めて好きになった人だった。  高校生の頃、いつだって彼女を目で追ってしまった。  友だちと話しているときの笑い方がすごく好きだと思った。わざとらしい誰かに合わせたような笑い方じゃなくて、そよ風みたいに自然に笑っていた。それが、とても耳に心地よかった。  聞いているだけで、いいなと思った。 『ねえ、今私のこと見てたみたいだけど、なんか変かな?』  ある朝、視線に気付いた彼女が慌てた様子でこちらへ歩いてきて話し掛けてきたときには心臓が止まりそうになった。 『今日寝坊しちゃって。慌てて出てきたから、おかしいとこあるかと思って』 『……大丈夫だと、思うよ』  いつも通り可愛いと言いそうになって、慌てて飲み込んだ。 『よかったぁ』  彼女は見ていたことを責めるでもなく、ほっとしたように笑った。  それが、彼女との最初の会話だった。  それから彼女と仲良くなった。  二人で休日に遊びに出掛けたりもした。デートと言ってよかったのかは、今でもわからない。  とても仲良くなったけど、それ以上には何も無かった。  好きだとか、そういうことは言えなかった。ちょっとだけ、そういう雰囲気になったこともあった。だけど、気の迷いかなって感じで無かったことのようになった。  高校を卒業して、別の大学に行くことになると段々と疎遠になってしまった。  初恋なんて、そんなものだ。
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