そよ風みたいに

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「あー、疲れた」  会場を出てすぐに、彼女は伸びをした。  彼女が他の誰とも一緒にいないということは、マッチングしていないということで、ほっとした。会場のロビーで会った彼女と、なんとなく流れでお茶をすることになった。ラッキーだ。  さっきはすぐに司会者に席につくように言われたので、話しているどころじゃなかった。  近くにあった喫茶店に入ってコーヒーを一口飲んでから、 「ねえ、番号、何番書いたの?」  彼女は言った。誰か気に入った人がいたら書く番号のことだ。お互いに書いた番号が合っていればカップル成立するという、アレだ。 「書かなかった」 「え? 嘘、それでもよかったんだ。絶対書かなきゃいけないと思ってた」  正直に答えたら、彼女はびっくりしたような顔をした。 「いいと思う人、いなかったの?」 「元々、そういうつもりで来たんじゃなから」 「そうなんだ」 「親に言われて、仕方なく来ただけ。マッチングなんかしたら面倒だなって悩んじゃった」 「嘘。一緒だ」 「え、そうなの? なーんだ」  彼女は笑った。すごく、ほっとした。  ほっとしたし、この先のことを考えてしまった。今更どうなるものでもないのに。  だから話題を変えるように聞いた。 「じゃあ、番号は適当に書いたってこと?」 「とりあえず埋めなきゃって、五十六番とかいない番号書いちゃった」 「今日、三十人くらいしかいなかったよね。五十六番ってなに?」 「なんとなく、フィーリングで。語呂合わせ? こんなところに来るくらいなら家でごろごろしてたかった、みたいな」 「それ、書いてないよりひどくないかな?」 「そうだったかも」 「運営の人、絶対困ってたよ」 「だね。だから、もう慌てて出てきちゃったけど」  二人で顔を見合わせて笑ってしまう。運営の人だって仕事だから笑い事じゃないのに、なんだかおかしい。  笑いが収まった彼女がこちらを向く。  どきりとしてしまう。  高校生の頃からこんなに時間が経っているのに、まだ彼女のことが好きみたいだ。  初恋はしつこい。
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