そよ風みたいに

4/5
前へ
/5ページ
次へ
「ねえ、本当にいいと思う人いなかった?」  彼女が首を傾げて聞いてくる。  ぐっと、言葉に詰まった。 「そっちこそ」  答えに詰まったときは、そのまま返すに限る。  彼女はちょっと困ったような顔になった。 「私、かぁ。そうだな……。番号、書けなかった人なら、いた」 「え?」 「書いても他の人が来ちゃうだけだし」 「どういうこと?」  彼女の言っていることがわからない。 「だって……、これ言っていいのかな。引かない? もう時効かな」 「?」  今度はこっちが首を傾げた。 「今、目の前にいる人ならいいなって思った」 「わ、私?」 「うん。でも、あれって男女でカップル成立する前提でしょ? その番号書いちゃったら同じ番号の男性が来ちゃうだけだから、それは困るし。私、男には興味ないんだ」 「え、ええと? じゃあ、なんでそんな男ウケしそうな服着て……。それに、男からモテそうなのに」  混乱する。  彼女は何を言っているのだろう。 「ああ、これ? お母さんが用意しちゃってたの。喧嘩になるのも面倒だから着てきたんだ。私の趣味じゃないよ。私が好きなのは……」  一旦言葉を切って、彼女が私を見た。 「高校生の頃、ずっと好きだったの。やっと言えた。言っちゃった」  彼女が何かをやり遂げた後のように、ほうっと息をつく。  彼女は私のことを真っ直ぐ見ている。 「……それは、もしかして、告白?」 「そう、だね。ごめん。気持ち悪い、よね?」 「ううん、違う」  私はぶんぶんと首を横に振る。  これは現実だろうか。  今日だってずっと彼女を見ていた。私だって、男になんか全然興味がない。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加