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夕方に差し掛かり、人が少なくなり始めた公園。その隅にある簡素なベンチにわたしと正樹は並んで座っていた。
正樹はじっと正面を見つめていた。視線の先にはサッカーに興じる少年達がいる。でも、おそらくその瞳は彼らを映してはいないのだろう。
正樹は一度ゆっくりと目を閉じる。そして、意を決したかのようにその目を開くと顔を正面に向けたまま言った。
「俺たち別れよう」
予想どおりの言葉だった。わたしからこの結末に向かって突き進んでいったようなものだから当然だ。それでも心はチクリと痛む。
「ほかに好きな人、できた?」
正樹は黙って首を振り、しばらく黙り込んだ。わたしはその横顔をそっと見つめた。キリリと結ばれた口元。高さに恵まれた鼻梁。虚空を見つめる瞳を飾りたてる長い睫毛。いまは憂えを湛える眉宇。
何度見ても、こんな時でも、素敵だな、好きだなと思う。
「そっか……良かった」
正樹はわたしに向き直る。その顔には少し不思議そうな表情が浮かんでいた。無理もない。でも、本当に良かったのよ。”ほかに好きな人が”だったらーー次がちょっと面倒だったから。
「じゃあ……なんで?」
”ほかに好きな人”でないなら、答えはわかりきっているが、一応聞いてみる。
「瑠香とは価値観が合わないから」
はい。正解。だって”瑠香”はそういう子だもの。今までに無かった刺激を求めて生みだされた子。
わたしは寂しそうに見えるだろう微笑を浮かべる。
「うん。わたしも思ってた」
遠くでホイッスルの音が鳴る。サッカー少年達はゆっくりと動きを止めていく。
気づけば公園内は夕日で赤く染め上げられていた。
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