あなたと何度でも

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 「ああ、()ーー」  ()ちゃん?と続けようとしたのを、すんでのところで押しとどめる。正樹の妹陽菜(ひな)の話は”寛子(ひろこ)”や”有紀”(ゆき)は聞いたが”瑠香”は知らないはずだ。さらにいえば、会ったこともあるのは”本当のわたし”だけ。 「うん?」 「ううん。なんでもない。それで妹さんはどこに行くって?」  正樹の説明によると、陽菜の旅行は一人旅で、隣県の有名な湖の見学がメインらしい。他にも山登りなどの自然を満喫するという計画のようだ。 「へえ、すごい。わたしは体力ないから無理だなあ」 「そっか。まあ自分に合ったところに行くのが一番いいよ」 「そうだね」  話の接ぎ穂を失い、二人の間に沈黙が落ちる。やがて、正樹が立ち上がった。 「帰ろっか?家まで送るよ」  わたしは黙って首を振った。  
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