悪魔になった日

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「日本国では復讐を合法とする」  一週間前、この国では、ある一定の条件を満たせば、復讐が合法をとなった。それは例え、相手の命を奪ったとしても……。  そして、その条件とは、『家族の命が奪われた場合』だ。  この法律の成立によって、全世界から反発の声は多く、国民からも批判の声が多い。しかし、近年、国内での治安の悪化が著しいのだ。しかも、重犯罪が圧倒的に増加傾向にあり、今までの法律ではもう抑えることができないと判断したようだ。しかし、復讐を可能にしてしまうと、より治安は悪化し、戦争になりかねない。したがって、『家族の命が奪われた場合のみ』にしたのだ。この場合の家族とは、二親等までのことを指す。  復讐をするしないは、遺族に委ねられるが、復讐をしない場合は従来通りの法の裁きを受けることとなる。  犯人捜しは警察と遺族両方で行うことになる。遺族が先に見つけた場合、その場で好きに復讐をしてよい。しかし、証拠は必要で、事後報告でもよいが、復讐を行った二十四時間以内に証拠を提出しなければならない。自分で復讐を行わない場合は、警察に突き出すことも可能だ。  全ては遺族次第なのだ。  今までは、殺人を犯しても死刑にならなかった場合でも、これからは、遺族次第では、命を奪われるということだ。むしろ、命を奪われること以上の地獄が待っている可能性も秘めている。  それによって、重犯罪を減らそうということらしい。  私は、田畑恭平、三十六歳だ。妻の有希(ゆき)と六歳になる娘、涼香(すずか)の三人家族だ。しかし、二週間前、春から夏へ季節の移り変わりが始まった頃、一人の男が、俺の不在中に強盗に入り、妻と六歳になる娘に暴行したのち、殺害したのだ。  住んでいる町は、田舎町で、こんな事件が起こるような所ではない。  この小さな町は騒然となった。それに犯人が捕まっていないとなると余計に不安が町中に襲う。  絶望と怒りが交互に押し寄せ、正直、自分自身も、二人の元へ逝こうとも考えた。しかしその矢先、この法律が成立し、犯人に復讐してからでもいいのではないかと考え直し、今に至る。  犯人はわかっている。なぜなら、我が家には防犯カメラがついているのだ。  この小さな町で防犯カメラなど、必要性がないとも思ったが、万が一のことを考え、昨年家を建てた時につけることにしたのだ。家族を守りたい一心で。それがこんなことになるとは……。  この法律が成立する前は、だいぶ取り乱していたが、復讐が出来るとなってからは、冷静にどうしてやろうかと考え、そのことに意識が向き、落ち着けている。  妻はこの町の人との交流を大切にしていた。行事には毎度参加をし、手伝いも買って出ていた。それに妻は管理栄養士でもあるため、近所の公民館で料理を教えたり、栄養のことについても相談にのっていた。  だから二人が亡くなった時は、大勢の方が葬儀に来てくれ、悲しんでもくれた。中には復讐に協力したいとまで言ってくれた人もいる。  そんな慕われていた妻だが、それが仇となったのだ。  防犯カメラに映っていた犯人は、仲良くしていた友達の旦那だったのだ。 ──福田喜一。  俺は薄々、この男の妻への好意に気づいていた。だからと言って、こんな事件を起こすなど考えにも至らなかった。ただ、気に入ってくれているぐらいとしか、思っていなかった……。  この男は、三軒隣に住んでいる。事件後でも、平然と暮らしており、俺に会うと挨拶をし、葬儀にももちろん出席し、泣き崩れる自分の妻を抱え、支えていた。  そして今日、その男の妻がお焼香をあげに、家に来た。  複雑な気持ちで対応していると、男の妻が、リビングにある防犯カメラを見つけたのだ。その時、男の妻の表情が、微かな強張りを見せた。そして、私に言ったのだ。 「犯人はこのカメラに映っていたんですか?」と。  なぜそう思ったか、自分でもわからないが、この男の妻は、自分の夫が殺ったことに気づいているのではないかと感じた。  その気配に動揺した俺はつい、「なんとなくわかっています」という、曖昧な答えをしてしまったのだ。そして、その答えを聞いた男の妻は、瞬きが多くなり、あきらかに困惑しているようだった。きっと、どうしようか決めかねているのだろう。そのあと、何事もなく男の妻は帰っていった。 「さっきの反応はまずかったな……」  そう、反省し、今日も作戦を煮詰めていく。    復讐決行まで、あと一週間……。      
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