第1話 発端

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第1話 発端

「があっ――!?」  百鬼院霊光(ひゃっきいん れいこう)が抜刀をするよりも早く、その男の剣閃(けんせん)は彼の顔面を横に裂いていた。  まさに一撃、いや、一陣と言ったほうがよいのか。 「霊光さん!」 「ぐ……うぐ……」  三千院静香(さんぜんいん しずか)が絶叫した。  百鬼院霊光は刀から手を放し、血の噴き出す両眼を抑えた。 「おやおや、そんなんじゃあ、剣客として失格だねえ。本物の剣士ってやつはね、たとえ死んだって、刀を手から放したりはしないんだよ?」  面前に立つ白髪の中年男は、楓をあしらった着物をひるがえし、長刀についた血を払った。 「霊光さん、しっかり! 貴様、名を、名を名乗れ!」  もだえ苦しむ百鬼院霊光をかかえながら、三千院静香は叫んだ。 「暁月明染(あきづき みょうぜん)、退屈な男だよ」  納刀したその男・暁月明染は、垂れ目をぐにゃりとゆがめてほほえんだ。 「おいらぁ、渇いてんだ。だから血が欲しくてしかたないんだよ。なあ、静香さんよ? あんたの血も、欲しいなあ……」  彼はゆっくりとこちらへやってくる。 「言わずもがな! よくもこのような真似を! わたしと立ち会え、暁月明染っ!」  噴火した三千院静香は、目にも留まらぬ速さで剣を抜いた。 「へえ、それじゃあ、行くよ……」  二つの剣戟(けんげき)が、森の木漏れ日の下で激突した。
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