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嫌々ながらシドの妃になったラナは、それでもまだ魔女を続けていた。
スピって頭がお花畑のシドだが、魔女と一緒に暮らして冷静になれば、魔女を妃にしたのは間違いだと気付くだろうと思ったからだ。
「もう仕事などしなくてもいいのに」
「税金を払わなければいけませんから」
明るく綺麗に整えられた部屋で地味に願掛け札作りを続けるラナを、半ば呆れた目でシドは見つめた。
シドは定期的に戦に行っては傷を作って帰ってくる。大変なことだ。
ダイナマイトボディに生まれたばかりに、まだ若いのに周りから頼られているのだ。
一方のラナは一応彼に同情はしているものの、構わず願掛け札作りを続けていた。実は魔女が妃になったことで知名度が上がり、依頼が増えたのだ。
それまで細々とやってきたのに、国内だけでなく国外からもひっきりなしに依頼が来るようになった。
全ての物事や現象には魔力が関与していると考えられており、願掛け札は対象の魔力の均衡を崩し、望みの方向への駆動力になる。
駆動力がつけばあとは物事がそちらに流れていくのだ。
ラナが受ける依頼は基本的には農作物の出来や家族の健康祈願が多かったが、そのうち戦を避けるような願掛け札も依頼されるようになった。
炎除けや招集忌避、単なる厄除けも増えた。どこの人間も戦など嫌なのだ。
そうやって相手を問わず依頼を受けていたものだから、戦況はぐちゃぐちゃになった。
どの国も兵は集められないし、攻め込もうにもあちこちに魔女の加護が張られているので損害を与えられない。
相手国を攻めるよりなにより、戦という形式を保つことがどこの国も難しくなり、皆、疑問に思いながら戦の手を止めた。
その頃にようやくラナは自分のやったことの影響が甚大であることに気付いた。
だがもう遅い。しらばっくれることに決めた。
しばらくして戦は終わり、国は平和になった。
シドも戦に出ることはなくなり、国内の安定に努めている。そのダイナマイトボディは持て余し気味だ。
いまだに頭の湧いているシドは「運命の人」とか、「永遠に一緒」とか、ヤバヤバのヤバな言葉をラナにかけてくる。
一方のラナは先輩魔女から「ほだされちゃって」とからかわれたが、それを上手く否定できなくなっていた。
今、ラナのお腹にはシドの子どもがいる。臨月だ。
そして彼女はまだ魔女を退職していなかった。
まさかまさか、自分の腹の子に自分で「祝福」を授けるなどということになるとは思っていなかった。
おかしな話だ。
「祝福の儀」の前にラナはあらかじめ、13番目の新人魔女のことを入念に調べていた。
大丈夫、彼女の推しのイベントは今日ではない。
「祝福の儀」に集まってきた魔女たちがにやにやとこちらを見ている。魔女は個人主義だが時に仲間意識も強く、さらに悪戯好きだ。
──頼むから、ヤバい「祝福」も「災い」もやめてくれ。
自分が「祝福」を授ける側だったときには、よその子どもなどどうでも良かったのに、いざ自分の子になると不安になった。なまじ、自分が魔女なだけに。
「祝福の儀」から1ヶ月後、ラナは美しい女児を生んだ。
女児は魔女からたくさんの祝福を受け、大きくなってからも魔女から目をかけられてすくすくと育った。
なお、13人目の新人魔女は失敗し、またもや「災い」は発動しなかった。
《 おしまい 》
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