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ついにこの日がやってきた。今日は三菱くんとデートの日だ。
でも、いつものデートとは訳が違う。
「……よし、いくぞ」
目の前に置かれた車のドアを開け、運転席に乗り込む。
今日は初めて私が運転するドライブデート。この前免許を取ったばかりなので実戦練習を、というわけだ。
適度に弾力のある座席に座ると、まだ人の触れていない空気の香りがした。
私が免許取得を報告するとお父さんが喜び勇んでプレゼントしてくれたマイカーだ。この子も今日がデビュー戦となる。
「よろしくね」
ハンドルを撫でながら声をかける。
意味はないとわかってるけど、これから長い付き合いになるのだから挨拶くらいはしたくなった。
ブレーキを踏みながらエンジンをかける。冷たい機械に命が宿ったかのように小さく振動し始める。
胸の鼓動が車の振動と重なった。緊張している、と自分でもわかる。
教習所を卒業して間もないためブランクはあまりないが、一人で車に乗るのは初めてだ。
車は走る凶器。教習所で習った言葉を思い出し、ハンドルを両手でぎゅっと握った。
……大丈夫。初心者マークも貼ったし。保険にも入ってるし。
そう自分に言い聞かせる。
ミラーを調整し、シートベルトを締めた。緊張をほぐすためチョコレートを口に入れる。
ふうと息をつき気持ちを落ち着かせたところで、カーナビの画面が表示された。三菱くんの家の場所を設定しなきゃ。画面全体に表示された地図に手を伸ばす。
しかし、私の指が画面に触れる前にカーナビから音声が聞こえた。
『目的地が設定されました』
あれ、と不思議に思う。
まだ目的地入力してないのに。
『運命の人へのルート案内を開始します』
地図上に、現在地から伸びる赤い経路が表示された。
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