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『およそ300メートル先、右方向です』  対向車と歩行者がいないことを確認してハンドルを切る。うん、今度は綺麗に曲がれた。  前の車としっかり車間距離を取りつつ横目でカーナビを確認する。  現在地に矢印のアイコンが表示され、進行方向を示していた。その矢印の先端から赤色の案内ルートが伸びている。  勝手に設定された目的地の解除方法がわからなかったので私は一旦三菱くんを迎えに行くことにした。  けれど、どうやら順調に「運命の人」への最短経路をなぞってるらしい。 「運命の人ってあれだよね。漫画とかでよくある『この人に出会うために生まれてきたの』みたいなやつ」  呟いてみてもカーナビは抑揚のない音声で『次の信号を左です』と案内を続けるだけだ。「お祝いに良いカーナビ付けといたからな」ってお父さんは言ってたけど、最近の良いカーナビってこんな機能ついてるの?  でも、運命の人かあ。  私だってもう大学生だけど乙女だ。そういうロマンチックな響きにはどこか憧れがある。  ……もしかして、と思ってしまう。  彼の家の方向が経路通りということは、もしかして三菱くんが私の?  高鳴りそうになった胸を押さえつけながらハンドルを切って左折する。フロントガラスの向こうに見慣れた景色が現れた。 「あ」  通りの先に手を振る男性の姿が見える。私は彼の元へ車を寄せた。 「お待たせ三菱くん」 「時間通りだよ本多(ほんだ)さん。無事に来られてよかった」  三菱くんは「新車いいなあ」と言いながら助手席へ乗り込んでくる。彼の重みで車体が小さく揺れた。 「お邪魔します。運転、しんどかったらいつでも代わるからね」 「ありがとう」  彼の優しい言葉に口元が緩む。  今日はこれから三菱くんとカフェでモーニングをする予定だ。その後の予定は特に決めてないけど、朝食がてら話せばいいか。  ひとまずカフェを探そう。  そう思いカーナビを見て、私は固まる。  彼と合流したにもかかわらず、赤色のルートはまだ矢印の先から長く伸びていた。
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