74人が本棚に入れています
本棚に追加
3
『およそ700メートル、道なりです』
案内を続けるカーナビを見て、三菱くんは首を傾げた。
「これってどこ向かってるの?」
「へ? あ、えっと、カーナビにおまかせデートコース機能っていうのがあってね。今日はそれ使ってみようかなって」
「へえ。カーナビも進化してるんだね」
「時代ってすごいよねえ」
嘘ついてごめんなさい、と心の中で謝る。
正直に言えば彼を傷つけてしまうかもしれない。そう思うと言えなかった。
三菱くんは運命の人じゃない。
ショックじゃないと言えば嘘になるけど、それより私はどうしても気になってしまった。
じゃあ、私の運命の人って誰?
三菱くん以外に心当たりが全くない。このままじゃ気になって運転にもデートにも集中できなさそうだ。
彼への罪悪感はなくもないが、私は一度カーナビの案内に従ってみることにした。
「でも思ったよりスムーズに運転してて安心したよ」
「そりゃあ、あのときの私とは違うからね」
赤信号で車を止めた私に三菱くんは音のない拍手を送る。
すぐに信号が青に変わり発進すると『次の信号を左方向です』と機械音声が聞こえた。矢印は赤いルートをなぞるように進んでいく。
この先に、私の運命の人がいる。
ちょっと見てみたい。それだけだ。
運命の人を見つけたからって三菱くんと別れたりするわけじゃない。一目見て満足したら彼とのデートに戻ればいい。
「あ」
「どうしたの?」
「いや、あそこのカフェ」
「あ」
三菱くんが指差す先に、見覚えのあるカフェがあった。
最初のコメントを投稿しよう!