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「ここってモーニングもやってたんだね」
「ね、知らなかった」
「二人であんなに通ってたのになあ」
三菱くんは言い終わる前にホットサンドを頬張る。お腹が空いてたんだろう。
私も薄いパンケーキをナイフで切って口に運んだ。メープルシロップの甘さが口の中にふわりと広がる。
「コーヒーの味は夜と変わんないや」
「おまけについてくるアーモンドチョコもね」
ふふ、と二人して小さく笑う。
ここは私たちが教習所帰りによく立ち寄っていた喫茶店だ。
私と三菱くんは教習所で出会い、応急救護の授業で同じチームだったことがきっかけで仲良くなった。二人で授業の時間割を合わせては、帰り道にあるこの喫茶店で夜遅くまで喋ったりしたものだ。
彼に告白されたのも、この場所だった。
「久しぶりに来れてよかったなあ。モーニングもあり」
「ほんとね。また来ようよ」
モーニングセットを食べ終えて、私たちは再び車に乗り込んだ。「おまかせデートコース機能侮れないな」という彼の言葉には苦笑で返す。
「さて、じゃあ次いきますか。運転大丈夫そう?」
「全然大丈夫。ありがとう」
「いつでも言ってよ。一日保険も入ってるから」
「さすが先輩は頼りになるなあ」
「任せなさい」
助手席でふんぞり返る三菱くんに私は笑う。
彼とは同い年で教習所に入校したのは同時期だが、私は卒業検定に一度落ちたので三菱くんより半年ほど遅く卒業した。運転歴は彼の方が少しだけ先輩なのだ。
私はアクセルを踏んで赤いルートに戻った。『実際の交通規制に従って走行してください』とカーナビが喋る。
慣れない運転で身体は思ったより疲れてるけど、三菱くんに私の運命の人へのルートを運転させるのはあまりに申し訳なさすぎる。
「さ、元気出していくぞー!」
「うお、どうした急に。もしかしてハンドル握ると豹変するタイプ?」
突然大声を出した私に驚く三菱くんを隣に乗せて、私は再び運命を辿る。
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