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『およそ1キロメートル先、斜め左方向です』
通りに車や人が増えてきた。
ここは大型ショッピングモールやインテリアショップが立ち並ぶエリアで休日は混雑する。それはわかっていたが、まだ昼も遠いのにこんな渋滞だとは思わなかった。
「混んでるなあ。まあデートスポットってこうなるよね」
きょろきょろと三菱くんは辺りを見回す。私たちもデートで何度か行った場所だ。昼過ぎに行ってかなりの渋滞に巻き込まれた記憶がある。
あの頃は一足先に免許を取った三菱くんが運転してくれてたからわからなかったけど、渋滞って結構神経が磨り減るんだなあ。
改めて彼に感謝したい気持ちになった。
「あ、新しい映画やってる」
三菱くんが見ていたのは映画館の壁に並べられた宣伝広告だ。
話題沸騰のアクション映画やベストセラー小説が原作の青春映画、人気アニメの映画版など色とりどりの看板が貼り付けられている。
「運命ばっかりだなあ」という彼の呟きに私はどきりとした。
「運命?」
「いや新作映画のキャッチコピー読んでたんだけどさ、『この運命からは逃れられない!』とか『二人の引き寄せた運命が歯車を狂わせる』とか、運命よく使われてるなって」
「あ、そういうこと。三菱くんも運命とか信じてるの?」
「うん、まああるんじゃないかな」
曖昧に答えて、それ以上彼は何も言わなかった。車が渋滞を抜けてスムーズに進み始めたので私も「あ、動き出した」と話を濁す。
カーナビが『およそ500メートル先、左方向です』と運命のルートを案内する。
もしも、と私は思う。
もしも彼が、自分が私の運命の人じゃないと知ったら、と考えると少し怖くなった。
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