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「ごちそうさまでしたっ!
ありがとうございます!畳みかけて
申し訳ないんですけどっ、どうやって
着替えたんですかこれぇっ!?」
「スマホで注文して、
店まで配達お願いしたんです。
七鳥さんが喜んでくれるかと思って…」
入店前は気取って歩いたアプローチをドタバタ騒がしく帰る羽目になり、黒服仮面さまのコスプレをした副社長の腕を引っ張って歩く。
会計は副社長がカードで支払いをしてくれたので御礼はしなきゃなのだけれど。
お店の人もずっと笑いを堪えていたし最後の方は限界で、ぷーって吹き出しちゃってたし〜。
恥ずかしくってボヤきも一緒に溢れちゃう。
面白がって画像でも撮られたら一巻のおしまい。
拡散される前に早くどこかに隠れなくちゃ。
お店のビルと隣のビルの間にとりあえずササッと身を隠す。
外灯も届かない細い路地にふたりで入り込んだ。
「ハァ、ハァ、どこかで着替えないと……
ウッ」
「七鳥さん!?大丈夫ですか!?」
急に吐き気を催してしまって口元を手で覆う。
そうだった、
じゃが芋にキツいカクテル……
推しが登場するアクシデントがなければ完全に意識持ってかれてたかもしれない。
黒服仮面の副社長が私から甲斐甲斐しく荷物を全部はがして受け持ってくれる。
「お酒をイッキ飲みしたので…」
「あ、僕が席を離れたから。
ごめんなさい…」
「副社長のせいじゃない…」
「七鳥さんの大好きなヒーローに変身して、
僕もカッコよく振る舞うつもりだった
のに……ううっ」
「な、泣かないでっ。
見惚れたくらい嬉しかった、ですよ?」
「本当に!?良かった〜」
黒服仮面がメソメソするとか、
ダメダメな甘えたがりとか、
超レア実写ビジュアル。
こんな至近距離で推しと見つめ合うなんて、夢のまた夢でお花畑の乙女脳でしか再生できなかったシチュエーション。
なんか……
いろいろ気持ちも胃の中もごっちゃごちゃで、もう溜めておけない破裂しそう!
いっその事、
壁に片手をついて前屈みでひと思いに!!
「…………萌ぉえぇぇ〜っ」
「…………それは、歓喜の吐き気ですか?」
「わっかんない……初めて出た嗚咽で……」
「とにかく休んだ方が……あっ!」
「?」
「あそこに休憩できそうな……
宿泊、ホテル?」
私達が入った方向とは反対の通りに見える明かり。
今いる暗い路地から眺めればまるでラビリンスの出口のように照らされている。
ビジネス風なデザインでカモフラージュした休憩と宿泊の掲示。
そ、そこは〜、
マズいんじゃないかな〜。
でも……
御手洗いに洗面台とアメニティー、
今の私にとってオアシスでしかない。
副社長のコスプレも晒さず部屋で着替えられるし。
願ってもない好都合か、
もしや計画的犯行か……
ウッ!ダメだ。
考えると萌え酔いの第二波が来てしまいそう。
片方で私の手を支え、もう片方は私の背中をそっと擦る。
推しに変身したその清らかな両手が優しすぎる。
黒服仮面さまに介抱される自分とか、
萌え止め薬がないとおかしくなりそう。
「……行って、みますか?」
「……(コクコクコク)」
この選択がどうか間違いでありませんように!
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