2.迷子の王子様

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PM18:00。 ももちゃんと私は駅前のコーヒーショップのテラス席にいた。 テーブルには空っぽになりそうなカップとケーキソーサー。 朝の会話通り私の仕事はあまかったので、 午後からももちゃんのヘルプに入った。 ももちゃんはマーケターで『ザ・トレンド女王』直感と先読みにたけている。 ラテとパフェケーキを奢ってくれて、バースデーショットもいただきますの前にアップ済み。 外はまだ明るく夕暮れをそろそろおいでと呼んでいる空の下。 ももちゃんはこれからブライダルの打合せに行くそうで、ダーリンが店まで迎えに来るのを待っている。 「結婚に迷いはなかったの?」 「全然。ダーリンはももがいないと  生きていけないって言うし、ももは  ダーリンとなら自然体でいれるから」 「それ、だけ…?」 拍子抜けした私とは裏腹に、 ももちゃんは前のめりで力説する。 「小春(こはる)さん、女の人生を豊かにするのは  存在意義と安心なの。  誰よりも必要とされてありのままを  受け入れてもらえる、これ一番大事!」 「そう、だねぇ」 「小春さんピンときてないね?  だいたい遊ばれたり浮気されたら  ムカつくでしょ?  それは自分の存在価値が低いって  晒されたから、怒りが湧いたりショックを  受けたりするの。  やっぱり女って誰かに必要とされてないと  自信が持てないとこあると思うんだ」 「うん、うん」 「それに俺様なやつで振り回されるのは  イラつくし、  いろいろ求めてくる執着タイプも  ウザいでしょ?  余裕ないとちっさい事ですぐ喧嘩に  なっちゃう」 「そう、かもね?」 「そのままでいいよって尊重してくれる人は  器が大きいし信用できるから、  素をさらけ出しても不安にならないの。  いい時も悪い時も全部受け止めてくれる  人って貴重だと思う」 「うん……そうだね!」 いやぁ、私ってば流されやすい。 見事に納得しているところ、ももちゃんが意味ありげな一言を付け加える。 「小春さんはシンデレラルートじゃない?」 「えっ?」 その時ちょうど目の前の道路に白のクラウンが停車した。 「あっ来た!」 「いいよ私片づけるから」 「ごめんね、ありがとう。あ、  でも送ってもらう?電車で潰れない?」 「…あぁ大丈夫大丈夫。  早く行きなよ、今日はごちそうさま」 ももちゃんがすぐ反応して片づけの素振りを見せたので、私は制止して急ぐよう促した。 バイバイの挨拶をするとももちゃんはスタスタ車まで走って、狭い路肩の助手席側からドアを慎重に開けて乗り込んだ。 ひらひらするスカートもくるんとしたロングの髪がなびくのも、可愛いなぁとにんまり眺めていると、車の窓が開いてももちゃんが私に向かって助手席から手を振った。 「おっ!?」 ダーリンもひょっこり。 ももちゃんの横から顔を覗かせて私にペコリと会釈するので、私も慌てて畏まり頭を下げた。 ダーリンなんて呼ばれてるから、 白のクラウンも似合うハイスペイケメンかと最初は期待しちゃったんだけど。 なんと44歳のハゲ…  ゴホッゴホッゴホッ… コホン。 紳士な薄毛のオッサ… っもうやめとこ! 悪気はないけど(やま)しい気持ちを打ち消すように必死で手を振り満面の笑みで見送った。 ももちゃん、ゴメン… 私だったらダーリンとの結婚は、 ないな!といつも思ってしまう。 適齢期のパートナーを見つけたい、 私の願望。 外見とか年齢も気になっちゃうよね… 白馬の王子様が目の前に現れたとして、 ツルっとしたオジサンだったらときめかないよ?
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