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俺はいつものように、銀行のカウンターの奥で、窓口に持ち込まれた振込等の処理をこなしていた。
入り口のドアが開いた。
(あ…)
見慣れたシルエットに、目が吸い寄せられた。
清水さんだ。
清水さんは、微かに笑っていた。カウンターの奥に俺がいるのが分かったらしく、その場から会釈される。
番号札の発券機のそばに立っていた行員が、清水さんに話しかけた。
するとその行員が、急いで裏から回って、俺のところに来た。
「よ、四回目です」
心臓が一瞬止まる。
「じ、上司を呼んできてください。それから、顧客対応室に…」
これは確かに自分の声のはずだ。
でも、ぼんやりと、どこか遠くから聞こえてくる声のようでもあった。
「わ、分かっています……。四回目ですから…」
上ずった声でそう言って、行員は走り去った。周りにいた行員が、微かにざわめき始める。
さっきの行員が、再び清水さんに話しかけた。
清水さんの、何か吹っ切れたような表情と、ずっしりと自信に満ちた立ち姿。
打ち寄せてくる予感に、俺はその場から動けない。
常にポーカーフェイスを崩さない上司を見習わねばいけないと考えるが、上手くいかない。
一回目は十万円。
二回目は一年後、百万円。
三回目は半年後、一千万円。
そして今日は四回目。三か月後。
もしもこれに法則があるなら、当選金は、いよいよ...。
(完)
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