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「笹山くん、お客様に必要な手続きの説明をするから、一緒に顧客対応室に入って」  上司が俺に命じた。  宝くじの当選金を受け取りに来た客の対応は、普通の窓口ではなく、別室で行うことになっている。 「はい」  俺はやっていた仕事を同僚に引き継いで、急いで上司の後を追った。  顧客対応室で、俺達はまず、必要書類への記入をペンギンに頼んだ。  ペンギンの名前は、清水さゆり。  年齢は三十一歳。  住所はこの県の山間部。この支店に来るには、バスとJRを乗り継いで、約二時間かかる。  ペンギンが当てたのは、百万円だった。  一等だが、宝くじはバラで一枚しか買っていなかったため、前後賞の当選券は持っていない。  ちなみに前回の当選は去年の十月。金額は十万円。  このくらいなら別にたいしたこともないような、でもやっぱりすごいような、微妙なラインだ。 「今度の当選金の使い道はお決まりですか?もしまだの場合は、当行の定期預金などをお勧めしたいのですが」  上司が銀行員らしい、穏やかな笑顔でセールストークを始めた。  上司はペンギンとは初対面ではない。前回当選した時も、上司が担当している。
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