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全ての手続きを終え、うちの銀行のオリジナルグッズがたくさん入った紙袋をさげて、清水さんは帰っていった。
上司がしみじみと呟いた。
「うちの銀行が”シャッチー”をやめてて良かったな」
「本当ですね」
シャッチーとは、三年前までうちの銀行で使っていたシャチのキャラクターだ。
ペンギンの顧客に、天敵であるシャチのグッズなんか渡せない。
上司が言う。
「清水さん、当選金を元手にして、自分の店を始めるそうだ」
俺が記入が済んだ書類を下げたり、グッズを用意しに行ったりと、何度か席を外している間に、上司は清水さんとそんな話しをしていたらしい。
「何の店ですか」
「アートギャラリーらしいよ」
上司が眩しそうな目をする。
「清水さんは、アーティストなんだそうだ」
これを聞いて、俺は妙に納得した気持ちになった。
「そんな感じですね」
清水さんと同じ町内にある古民家カフェが、その広い店の一部をテナントとして貸し出すらしい。
それを知った清水さんは、以前からの計画を、実行に移すことにしたのだそうだ。
「清水さんはどんなアート作品を作ってるんでしょうね」
絵画だろうか。オブジェだろうか。
「開店したら行ってみたいね」
そんなことを上司と二人で話した。
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