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「───で中学の頃の先輩がいつもテスト1桁だったんだよね」
「え、なにそれ逆にすごくない?」
「あ、でも国語は得意みたいで14点採ってたわ。100点満点で」
「あ、なんか可哀想に思えてきた」
私は同じクラスの陽菜と電車待ちの時間駅のホームで談笑している。毎日一緒に登校していて、今は中学の頃の思い出について話しているところだ。
「へぇ、俺がいないとこでそんな話してたんだぁ」
「うわっ!!」
私たちは同時に振り向いた。聞き覚えのある声、甘ったるい匂い、何よりうざいくらいに整った顔。あぁ、あの人だ。
「…先輩」
「久しぶり!また会えたね」
「別になんにも嬉しくないんですけど」
私はツンとした言い方をした。この人の前だとなんだか素直になれない。そんな自分が嫌いだ。
「美沙…この人は?」
陽菜は居心地が悪そうに言った。
「今話してた馬鹿な先輩だよ」
「酷いなぁそんな言い方してさ」
先輩はわざとらしく俯いて言った。ずるい。本当にずるい。可愛すぎでしょ、この馬鹿。
すると電車が滑り込んできた。私と陽菜が座席に座ると先輩は当たり前のように私の隣に座ってくる。悔しいけど居心地が良くてなんとなく安心する。私たちの通う学校の最寄り駅に着くまで先輩は会話に一切入ってこなかった。それが不安で話の内容が頭に入ってこなかった。
「……さ、美沙!」
「え、な、何?」
「駅、着いたよ」
「あぁ、ごめん」
私は急いで立とうとすると急に腕を掴まれた。ゾワッとしてゆっくりと伸びる腕の先を辿ると悲しそうな、寂しそうな表情をした先輩の顔があった。
「学校着いたら連絡してね」
私はつい嬉しくなってしまう。あぁ悔しい。
「しょうがないですね。分かりましたからもう行きますね」
私がそう言うと先輩は嬉しそうにニコッと笑って言った。
「またね」
この一言で、この笑顔で一生分のエネルギーがチャージされた気がした。
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