オモイデカノジョ。

15/17
前へ
/17ページ
次へ
「あの、えっと……。それって……」  何故だか急に頬が火照っていくのを感じる。 「うん……?」  彼女はまたこちらに視線を戻すと、俺の様子を不思議そうに見つめている。 「いやっ、えっと……だからっ、俺も――」  俺も、なんだろう。俺は何て言おうとしていたんだろう。  言葉の続きが分からない。この後は何て言ったんだろう。  そもそもこんなこと言っただろうか。  わからない、けど―― 「なんだ、これ……。昔の記憶……?」  頭に浮かぶのは色んな表情の彼女の姿。  彼女の笑った顔が好きだ。怒った顔も好きだ。照れた顔も、困った顔も好きだ。  いつもそばに彼女がいて、楽しくて、嬉しくて、そしてたまに切なくて。  一緒にいると胸が高鳴り、彼女から目が離せなくなる。  その声が、その表情が、どれも愛おしい。  いつも近くにいたのに、どうしても伝えらなかったこの気持ち。  思い出した。この感情が何なのかを。 「そっか、俺……好きだったんだ」  その時、不意に頬に何かが伝っていく感覚に気づいた。  つい口に出していた。出さずにはいられなかった。  それは、あの時彼女に言えなかった言葉。 「えっ――」  俺のその言葉に、彼女は驚いた表情で目を見開いた。 「あれ、今……え?」  表情を変えず彼女がそう呟く。  それから彼女はなぜか笑みを浮かべて、嬉しそうに俺を見つめた。 「まぁ、いいか。――ねぇ、覚えてる?」  笑顔でこちらを見つめるその瞳には滴がたまり、そして静かに頬を伝って零れ落ちた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加