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「あの、えっと……。それって……」
何故だか急に頬が火照っていくのを感じる。
「うん……?」
彼女はまたこちらに視線を戻すと、俺の様子を不思議そうに見つめている。
「いやっ、えっと……だからっ、俺も――」
俺も、なんだろう。俺は何て言おうとしていたんだろう。
言葉の続きが分からない。この後は何て言ったんだろう。
そもそもこんなこと言っただろうか。
わからない、けど――
「なんだ、これ……。昔の記憶……?」
頭に浮かぶのは色んな表情の彼女の姿。
彼女の笑った顔が好きだ。怒った顔も好きだ。照れた顔も、困った顔も好きだ。
いつもそばに彼女がいて、楽しくて、嬉しくて、そしてたまに切なくて。
一緒にいると胸が高鳴り、彼女から目が離せなくなる。
その声が、その表情が、どれも愛おしい。
いつも近くにいたのに、どうしても伝えらなかったこの気持ち。
思い出した。この感情が何なのかを。
「そっか、俺……好きだったんだ」
その時、不意に頬に何かが伝っていく感覚に気づいた。
つい口に出していた。出さずにはいられなかった。
それは、あの時彼女に言えなかった言葉。
「えっ――」
俺のその言葉に、彼女は驚いた表情で目を見開いた。
「あれ、今……え?」
表情を変えず彼女がそう呟く。
それから彼女はなぜか笑みを浮かべて、嬉しそうに俺を見つめた。
「まぁ、いいか。――ねぇ、覚えてる?」
笑顔でこちらを見つめるその瞳には滴がたまり、そして静かに頬を伝って零れ落ちた。
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