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自宅である四階建てのマンションの一室に着くと、俺はスーツの上着を椅子に掛けてそのまま布団に転がり込んだ。
特に趣味もなく、帰ってからは風呂と食事と睡眠くらいしかすることはない。
よくもまぁこんなつまらない大人になったものだ。だけど不思議と何も感じない。
それはやはり昔の記憶が抜け落ちているせいなのだろう。思い出と共に記憶された感情までもが無くなってしまったのかもしれない。
俺は感情表現が苦手だが、本当は忘れてしまっているだけとも言える。
特に恋愛感情というものが俺にはよくわからないのだ。頭ではそれを理解していても実際にどういう感情なのか感じることができない。まるでどこかに置いてきてしまったような感覚だ。
寝返りを打つように仰向けから体勢を変えると、テーブルの下に置かれた一冊のアルバムに目が留まった。
「……ん? これは……」
それは高校の卒業アルバムだった。
俺はおもむろに手を伸ばしそれをつかみ寄せると、適当にパラパラと捲り始めた。
「こんなのいつ出したっけ……」
しばらく無言のまま、ただ何となく適当なページを開いていく。
そこに懐かしさなど欠片もない。俺の知らない思い出がたくさん詰まっていた。
おそらく友達であろう人達の写真もたくさんあるが、俺にはもう誰なのかわからない。
写真の中の俺はそれはもういろんな表情をしていた。今の自分じゃとても考えられない。
そうこうしているうちに後ろのページまでたどり着いてしまった。
そこには何もない白い余白に、色んな人の名前とたくさんのメッセージが綴られている。
おそらく寄せ書きコーナーみたいなスペースなんだろう。
その中の一つに目が留まった。
『また会おうね』
ただその一文だけ。書いた人の名前はなかった。あったところで思い出せるわけでもないが、なぜかその一行から目が離せなかった。
上手く言い表せないが、心の中に靄がかかっているような、そんな気分だ。
「まぁ、今さら見たって何も思い出せるわけないよな」
それ以上あまり深く考えはせず、俺はアルバムを閉じて適当な場所に置いた。
それから目を瞑ってし少しすると、意識は徐々に遠のき、やがて深い眠りへと就いていった。
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