二人の死刑囚

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次の日も少女は田んぼ道をとぼとぼと歩いて帰っていた。 「あ、昨日の市役所探し人」と少女は平坦な声で言った。「無事に市役所には辿り着きましたか?」 おかげさまでな、と男は少女に向かって言った。 「ここに住んでる人じゃないんですよね。ここには何をしに来たんですか?」 「……ある人を探しに来たんだ」と男はまた口走った。 ふうん、と少女は二十センチほど上にある男の顔を見上げながら言った。 「探してる人はどんな人なんでしょう?」 男は女性だ、と言ってから、てきとうな身体的特徴を挙げた。 「ふうん、そうなんですか」と少女は小さく呟いた。「じゃあ、わたしもその人探しを手伝ってあげますよ」 「母親に知らない人にはついて行っちゃいけないって教わらなかったのか?」 「わたしの名前はエマです。あなたは?」 男はジュンと名乗った。もちろん偽名だった。自分の本名を名乗ったのはもう随分昔のことだったので、自分の本名の名乗り方を忘れてしまっていたのだ。 「じゃあこれでもう知らない人じゃないですね」と少女はへらへら笑いながら言った。 どうやら見ず知らずの大人の男と二人で行動する危険性を理解できていないらしい。 好都合だ、と男は思った。これならいつでも殺せる機会はある。 少女は男の前を先導して歩き、この町には本当に何もないということを時間をかけて伝えた。だから人がいる場所は限られているし、その気になればすぐにその人は見つかるはずだと。
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