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しかしもちろんその人物が見つかるわけもなく、ただ時間だけが過ぎていった。
男はポケットに手を突っ込み少女の後ろを歩き、その背中をじっと見つめながら、何度もその身体にナイフを突き立てている状況をイメージしていた。
彼女の真っ白な制服を真っ赤な鮮血が染め上げていき、少女は何が起こったのか分からない、という風な顔をしながら男の顔を見つめる。
そうして未来の大罪人は死んでいき、六人の男女が死なない世界に進んで行く。
悪くない世界なのだろう。
少なくとも、六人の人間の命は守られるのだ。
日が沈みはじめこの日の捜索は打ち切りとなり帰路についている時、男の前を歩いていた少女は不意に口を開いた。
「……あなたは、気味悪がらないんですか?」
少女は足を止めて振り返る。
彼女は右頬に残る生々しい傷跡を露わにしていた。
「両親に熱湯をかけられたんです」
少女はあくまでも平然を装った口調でそう言った。
その表情は西の山に消えていく太陽の逆光でよく見えなかったが、暗く沈んでいるようにも見えた。
「そうか」と男は静かに言った。
「学校の人達はこれを見てみんなわたしの傍からいなくなっていきました。……まあでも、汚いですもんね」
「別に汚くなんかない」と男は言った。
「……えっと、その、ありがとうございます?」
少女は真っ赤に染まった左の頬を隠しながら言った。
その少女の表情を見てから、何を口走っているんだ俺は、と男は思った。
「あなたって、もしかして変な人ですか?」
「どうだろうな」
「まあ、明日も付き合ってあげます」少女は声を弾ませて言った。「あなたが探しているその女の人にも会ってみたいですし。どんな人かちゃんを見ておかなくちゃいけませんから」
「なんだそりゃ」と言って男は笑った。あ、笑った、と少女は喜んだ。
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