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それから二日間、二人はなにもない町の中を練り歩いた。
二日目の昼頃には、もう行っていない場所はなくなってしまったが、それでも二人は様々な話しをしながら町を回った。
いつの間にかに、少女は右頬のやけどの傷も気にしないようになり、男の話にお腹を抱えて笑うようにもなっていた。
町の住人は、そんな二人を腫れ物を見る目つきで見ていたが、二人はその視線にも気づいていないようだった。
ある日、少女は打ち明けるように言った。
「わたしね、実はアイドルになりたいんです」
「いいじゃないか。きっとなれる」
男が言うと、少女は目を何回か、ぱちくりと目を瞬かせたあと、恥ずかしそうに顔を俯かせた。
「……ちょっと、今のは笑うところですよ」
「ああ、そうだったのか。すまん」
「今のは謝るところじゃないです」と今度は頬を膨らませて言った。
「なんだ。難しいな」
「……ほんとに思ってます? 私がアイドルになれるって」
「思ってるよ。でも、一つだけ忠告がある」
「なんですか?」
「親に自分の口座は教えないほうがいい」
男は真剣な顔をしてそう言うと、少女は声を上げて笑った。
「分かりました。絶対に親には口座は教えません」
またある日、少女は言った。
「わたしはね、いつ人生を棒に震ってもいいと思ってるんですよ。ほら、顔にこんなものがあるから。案外楽ですよ。なにも期待しないで生きるのは」
「でも、人生なにが起きるか分からないもんだ。ある日突然良いことが起こるかもだってある」
「あなた、いくつですか?」
「三十。いや、もう三十一か」
「で、起きたんですか? 良いこととやらは」
「起きたよ」と男は言った。
「なんですか?」
「お前に出会えた」
少女はしばらく黙っていた。
男と目が合うと、すぐに逸らして、何度も一人で頷いて、最後にちらっと笑った。
「私も良いこと起きました」
「なんだ?」
「ないしょですー」
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