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その日、女は殺人罪で死刑囚になった男と面会することになっていた。
男が事件を起こしたのは今から四年前で、犯人は捕まっていないという未解決の事件だったが、つい先日犯人の男が自ら出頭してきたことにより事件は急展開の解決を迎えた。
数日間で合計六人の男女を理由もなく刺殺した男は、今世紀最大の犯罪者と世間から呼ばれていた。
女は警官に面会室へと案内され、ここで待つように指示を受ける。
しばらく経ってから、アクリル板の向こうのドアの開くと、そこから今世紀最大の犯罪者と呼ばれる男がやってきた。
男は女とは目を合わせずに、女の目の前の椅子に座った。
「お久しぶりですね。わたしのこと、覚えてますか?」
「どうだったかな。過去の事を思い出すのは苦手なんだ」
「あの時のあなたの唇、すごくカサカサしてましたよ」
男が顔を上げると、かつての少女はいたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「思い出しましたか?」
「部分的には」
それはよかった、と彼女は嬉しそうに言った。
アクリル板越しに少しの間、沈黙が流れる。
「あなたのせいで、わたしは天涯孤独の人生を歩んできました」と彼女は言った。「幸せなことなんて、何一つなかったです。周りに助けてくれる人なんていなかったから、全てを一人で解決しなくちゃいけなかった。とても辛かったです」
男は何も言わずに黙っていた。
「でも、ちっともあなたの事を恨んでなんかいません。あなたが殺した何人かはわたしに暴力を振るっていた人物です。どうしてあなたがそのことを知っていたのかは、わたしには分かりません。あなたが一体誰なのかも、わたしにはわからない。
だから、これだけは言わせてください。あの時、誰もわたしと会話をしてくれる人なんていなかったから、わたしの目をしっかりと見て会話をしてくれるあなたが本当に嬉しかった」
男は頭では彼女の言ったことを否定したが、それが口に出る事なかった。
「それと、わたし、やっぱりアイドルにはなれませんでした」と少女は右頬に残る忌々しいやけどの痕を触りながら言った。
「そうか」と男はあの時の同じように静かに言う。「なれると思っていたんだけどな」
「でも、親に自分の口座は教えてません」と少女はいたずらっぽく舌を出す。
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