55人が本棚に入れています
本棚に追加
/106ページ
「誠也さん」
「うん?」
「私のこと、好き?」
「うん?」
誠也は微笑むだけで、答えをくれなかった。ああ、悔しい。誠也は私のモノにはならないんだ。
私は歯を食いしばった。思えば思うほど、独占したいという女のワガママな気持ちが、感情を支配して落ち着かない。
「こういうこと、雫ちゃんとしたことない、よね?」
「え?」
先に関わっているという嫉妬。『雫ちゃんは悪くない』と正論を被せて埋めていた嫉妬は、もう、抑えきれなかった。ずっと気付いていた。私は、雫ちゃんを蹴落としたかったって。友達のくせに、雫ちゃんに嫌がらせをした女性社員と同じ思考だって。庇っていると、嫉妬心が溜まるって。
誠也は、唖然として目をパチクリさせた後、『そういうことね』と呟いた。
「あー、雫って男ウケいいもんねえ」
「答えてよ」
「はいはい。なんで俺が、雫としなきゃなんないのさ。ああいう、根っからのヒロインで周囲を乱す天然は、地雷を踏むのと変わらないの。あー、思い出すだけで頭痛い。好きになられても困るし、雫に優しくすれば、周囲の人から危害を加えられるし。俺は無理」
(してないんだ)
私は雫ちゃんの上に立てたことが嬉しくてホッとした。それと同時に最低だと思った。
「他の男は、やっぱり、ああいう女の子が好きなのかな?」
「んー」
誠也は困った顔をして、私の髪を撫でた。
「男って、そういうもん。でも、よっぽど恋愛に疎い男以外、本気にはならないかな」
「えっ?それはかわいそうじゃない?」
マウントからの余裕からか、私は雫ちゃんを本気で心配していた。顔を上げると、誠也は悲しそうに私を見つめていた。
「誠也さん?」
「明穂さんは、本っ当に人を疑うことなく成長したんだね」
「えっ?」
「雫は、それを受け入れた上で、ずる賢く生きているよ。そういうもんなの。自分の役割っていうか、自分のポジションっていうか。そうしないと、社会で生きていけないから……これから、明穂さんもわかるようになるよ」
誠也は、私の額にキスをした。
最初のコメントを投稿しよう!