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「ねえ、圭介さん」
「ん?」
私は体ごと向きを変えて、圭介さんを見た。
白いバスローブを羽織った圭介さんは、五年前と変わらない姿で私を見つめていた。
モデルのようなお顔と体型。気品ある雰囲気。隠せない聡明感と少し影が見え隠れする、付け入れられそうな隙。
(うーん。五年前よりもモテるわ、こりゃ)
圭介さんが私に一筋なのが、不思議で仕方がなかった。
じゃあ、私は?
髪の毛も言うこと聞かなかくなってきたし、肌のハリも少なく皴も増えてきたような。
五年間で相当老けたような。
「明穂?」
「私って、老けたでしょ」
「ええっ?」
「ほら、やっぱり。驚くってことは図星なんだ」
私はまた壁を向いた。急にそっぽを向かれた圭介さんは慌てている。
(わかっていたけど、ちょっと傷ついたし)
圭介さんは優しい。
でも、女心ってのがわかっちゃいない。
こうやって拗ねている時は、『そうじゃないよ』と言って抱いてほしい。弱気な感情を全て吹き飛ばしてくれるような、滅茶苦茶激しいやつ。
ワガママだってわかっているけど、期待しちゃいけないこと?
『エッチ=生きている意味』として捉えている圭介さんには、理性を吹き飛ばして気絶するぐらいの性欲に素直なエッチって、考え付かないんだろうな。
そんなことを言う私だって、圭介さんを含めた経験人数二人のスキル不足だけど。
「ごっ、ごめんね?俺、歳を重ねることは悪いことだと思っていないんだ。一緒に老いることができて嬉しいから。今日も俺の側にいてくれて、ありがとう」
圭介さんは、私の頬にキスをした。
(優等生の回答が欲しいんじゃなくて、もっと、こう、この先を、さ?)
「ううん、いいの。私も嬉しいから」
そんなことを言えるわけもなく。
「そっか。二度寝には少し微妙な時間だけど、どうする?」
「圭介さん。まだいてくれるんだったら、寝てもいい?」
「うん。いいよ」
私は、圭介さん側に体の向きを変えて、圭介さんの手を握った。
「圭介さん」
「なあに?」
「ありがとう」
髪を撫でてくれた圭介さんの手は、大きかった。
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