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もともとこの仕事には、大した情熱も使命感もなかった。
せいぜい食えればいい、社会復帰の軽いリハビリになればいい。
そんな思いで、始めた仕事だ。
しかし、今、俺は強い決意を抱いていた。
俺が、なんとかしなければ。
少なくとも、俺自身がここに通えるくらいには、清潔にしなくては……と。
ひび割れた塗装(割れているのが表面だけでありますように……)の壁に沿って、事務員の女性が案内してくれたのは、ぼろぼろの金属扉の前だった。
「こちらでおかけになってお待ちください」と残し、踵を返して去ってゆく。
こじんまりとした会議室だ。
プラスチックのテーブルとパイプ椅子が二セット、向かい合って設置されている。
上座と下座がどっちか忘れたので、とりあえず向かって右側の椅子に腰かけた。
黒いビジネスリュックを膝に乗せ、なんとなしに顔を上げる。
天井には、二本の蛍光灯が白く光っていた。
表面をふわふわした灰色の埃が、覆っている。
埃から数本伸びた細いクモの糸が、隙間風にそよいで、ゆらゆらと揺れていた。
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