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<3・油断大敵>
うちの学校の文芸部は、結構“ガチ”でやっているところだと聞いたことがある。
文芸部というと普段はのんびり読書でもやっているようなイメージがあったが、聞くところによればうちの学校の場合、多くの者達が本気でプロの小説家を目指しているというのだ。
だから一年にできれば三回、それが無理でも最低一回は長編の文学賞に応募するという決まりがあるのだという。
部員の中には有償でプロに原稿を添削してもらったり、執筆講座に通って鍛える人もいるらしい、と鈴木が教えてくれた。
「小説家ねえ」
あたしは呆れてしまう。何故ならば。
「そんな甘い世界じゃないでしょ。そりゃ、高校生でデビューできたらかっこいいでしょうけど?数多の作家志望が夢を見て、叶えることができずに無惨に散っていくような世界じゃないの。食えていくのは才能があるほんの一握り。楽しくラクして小説で食っていこうなんて、夢見がちな人達の集団よね」
「は、はっきり言うのな、薫子様は……」
鈴木はやや引きつった顔で笑う。
「まあ、ガチのガチで鍛えたところで、小説の世界ってのは厳しいのは確かなことだろうけどな。俺は、まともな小説書けるだけで尊敬するし……羨ましくもあるかな」
「なんで?」
「俺にできないことできてる奴らって、なんかすげーじゃん?それに、本気で何かに打ち込んでる人達って、どんなことでもかっけーっつーか。俺らのサッカーの活動と一緒だと思うんだよな。俺らだって、みんながみんなサッカーでプロになれると思ってるわけじゃないけど、それでもサッカーやってる。サッカーすること自体が楽しくて、プロになれなくたってその時間には意味があると思ってるからっつーか」
なんちゃって、と彼は肩をすくめた。
「このへん、聖樹のやつの受け売りなんだけどな。……ひょっとしたら、あいつは北部さんに、自分と同じものを感じたから好きになったのかも。北部さんも、結構マジで小説書いているらしいからさ。文芸部の話も、本人から聞いたし」
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