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「あの薫子お嬢様が、フラレたんだと……」
その日以来。
教室といい廊下といい、ひそひそ話が聞こえてくること必至である。あたしはそれほどまでに有名人だったというわけだ。そりゃまあ、中央もみじ銀行重役の娘にして、高一ではミスコン優勝、成績も学年上位という才色兼備なお嬢様である。自分で言っちゃうくらい、自分に自信ありまくりのこのあたしだ。
あたしに告白してフラレた男ならばいくらでもいるが、よもやあたしから人に告白してフラレるなんてまずありえない。天地がひっくり返ったか、さもなくば明日あたりに隕石でも降ってくるのではないかというほどの一大事である。
周囲がざわつくのも有名人のさだめと思えば、仕方ないことなのかもしれないが。
「薫子さんに好きな人がいたなんて話が、まずびっくりすぎるんだけどね……」
「相手誰なの?知ってる?」
「サッカー部の西条くん。薫子お嬢様と同じ、二年一組の」
「ああ、まあ西条くんなら仕方ないかあ。超イケメンだもんね。親に勝手に芸能事務所のオーディション応募されて、書類審査通っちゃったこともあるんだっけ?」
「西条なら仕方ないけどなあ、相手としては十分だし。でも、西条の家フツーだろ?庶民に興味あったのは意外だ」
「で、フラレたと。西条も勇気あるなあ」
「理由はなんなの?サッカーが恋人みたいな人だから、部活に集中したいとかあ?」
「まあお嬢様と付き合ったら、土日ぜーんぶ束縛されそうだけどな!」
「それがさあ、好きな人がいるからだって。しかもその好きな人っていうのが……」
「えええ?北部さん?薫子お嬢様が、北部さんに負けたの?マジ?」
「マジマジの大マジ!それでお嬢様はずーっとしょげてるんだって!」
「おい、お前らちょっと声でけえぞ。聞こえるだろ……」
――ストップかけるのが遅いのよ、このばーか!
全部丸聞こえですが何か?と言わんばかりに話している男女を睨みつけてやる。すると彼らは、ひえっ!と声を上げて蜘蛛の巣散らすように逃げていった。
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