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<6・死児之齢>
別に、小説の世界に興味を持ったわけではなかった。
ただ気づいてしまっただけだ。自分は本気で、何かに打ち込もうとしたことなんてないという事実に。
そして、かつて本気で楽しんでいたはずのことを、一度の挫折で捨て去ってしまったのだという現実に。
愛弓が自分の元を去ったことを、責めるつもりはない。彼女が“誰にも見せないで”と言ったのに、自分はそれを了承して約束したのに破ったのは紛れもない事実。それで責められて関係が断絶したのは完全にあたしの側の咎だ、ということくらいわかっている。
しかしだからといって、本来小説を書くという行為までやめる必要はなかったはずなのだ。
一人でだって、物語を書こうと思えば書ける。
愛弓がいなくなった以上リレー小説は無理でも、一人で物語を紡ぐことなら十分可能だったはず。それなのにあたしが二度とペンを握らなかった理由は単純明快。彼女を言い訳にして、小説を書くことから逃げたからだ。
『いやいや、すっげーおもしろいって!そんなヘタクソな文章で、小説家になれるって夢見ちゃってるお前らがさー!ばっかみてー!!』
世の中には、受け止めるべきアドバイスと、聞き流すべき誹謗中傷がある。この差は大きいのに、それを見極めるのは非常に難しい。
あの時男子たちが言った言葉に正しいことがあったとしても、だ。悪意をもって発された言葉を全て真に受ける必要なんて、本当はなかったのではなかろうか。それこそ、今思うに自分がいかに素晴らしい傑作を書いて見せたとて、あの男子たちの心を動かすことなんぞできなかったことだろう。
彼らは自分達を、嘲笑ってやりたくて声をかけたのだろうから。
最初から、貶める事が目的であったのだろうから。
そういう人間の言葉に、耳を貸す必要はない。例えそこに、僅かばかり真実があったとしても、だ。
――それでも、あたしは。……そんなヘタクソな文章で小説家になんかなれやしないって……あの言葉で、折れてしまった。
誰が読んでも素晴らしいはず、面白いはず、みんなが楽しんでくれるはず。
そう驕っていた気持ちが、一瞬にして叩き折られてしまった。自分達は、否あたしは傲慢になっていて。傷つくと同時に気付いてしまって、一気に馬鹿らしく感じてしまったのである。
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