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もう一度、稀美ときちんと話をした方がいい。
そう思ったあたしは翌日、朝のホームルームが始まる前に廊下に稀美を呼び出していたのだった。
稀美と言えば、相変わらずあたしに一切警戒もせず、トコトコと人気のない廊下の隅までついてくる。多分、文芸部についてもっと質問が来るだろう、とでも思っているのだろう。
「どうしたの、東野さん。私に話って」
「えっと、その……」
段々と主題が、聖樹のことではなく彼女本人に移っていっているような気がする。それでもあたしは、確かめずにはいられなかった。
彼女がどうして頑張れるのか、その秘密を。
そこに、あの聖樹があたしより彼女を選んだ秘密があるような気がしてならないからこそ。
「……小説の文学賞に応募してるって、言ってたでしょ。青少年ひまわり文学小説大賞ってやつ」
「うん、応募してるよ?」
「あれ、WEBの……小説投稿SNSとコラボしてるんですってね。ちょっと調べてみたの。小説投稿SNSのスターライツってところでタグをつけて応募すると、応募完了になるんだって」
「うん、そうだね。今はそういう公募も多いよ。だから応募しやすくてすごく助かってるかな。ギリギリまで原稿の修正ができるしね」
「そ、そう……」
予想通り、随分とポジティブな答えが返ってくる。なんだか苦々しい気持ちになった。というのも、小説投稿サイトに作品を投稿して公募に応募するというのは、とある大きなデメリットが存在するからである。
つまり、応募した原稿が、選者以外にも晒されてしまうということだ。
よって既に応募した原稿から、他人にアイデアを盗まれる可能性もあるし、同時に一般読者にも読める状態になるということなのである。その結果、面倒な読者に引っ掛かって誹謗中傷を受けるなんてこともありえるはずだ。
面白い、と感想を書いて貰えれば励みになるだろう。
しかし悪意のある人間に攻撃されたらどうなるか?せっかくの原稿なのに、締め切りが来る前に取り下げたくなってしまうなんてことはないのか?
いや、面倒な読者なんて来なかったとしてもだ。ブックマークの数、読者の数、評価の有無などは可視化されることになる。他の応募者の作品がどんどん評価されていく中、自分の作品はそもそも全然読んで貰えなかったら?ランキングに入るどころか、本当の本当に底辺で見向きもされなかったなら?
「怖くないの?」
自分だったら、正直、怖い。
「あたしは。……あたしも、大昔。小学生の時に一度、筆を折ったから。想像できなくない、というか。……一生懸命作品書いても、面白くないって誰かに言われてしまったら。誹謗中傷を受けたら。誰にも見向きもされなかったら。……そういうこと、怖いって思わないの?貴女は。公募だってそう。あたしは一次落ちだって怖いわよ。だって、こんな作品は一次を通す価値もない、面白くないってレッテルを貼られるようなものじゃないの……」
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