<7・危言聳聴>

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<7・危言聳聴>

「ちょっとツラ貸しなさいよ、そこのイケメンくん!」 「げっ!」  放課後、声をかけると明らかに西条聖樹は青ざめた。聞かなかったことにして逃げようとする彼の首根っこを掴み、あたしは顔を近づけて言い寄る。 「に、が、さ、な、い、わ、よ!……ていうかずううううっと人を避けやがって、本当にいい根性してるわよね。このあたしの好意を無下にしたのはあんたの方のくせに!」 「すすすすす、すみません……!」 「部活に行く前にゆっくりお話しましょうか?大事な大事なお話だもの、付き合ってくれるわよね?」 「いいいいいや、その、俺、部活忙しいから……!」  聖樹が助けを求めるように、一緒に行こうとしていた友人達を見る。あたしは素早く鈴木たちをはじめとした少年たちを睨んだ。そりゃあもう、殺意をこめてギンギンに睨んでやった。  哀れヘタレどもは、ずさささささささささ!と揃って教室のドアの方に後退りすると、引きつった笑顔で告げたのである。 「だ、大事な話なら仕方ないよな!うん、仕方ない!」 「か、薫子様の言う通りいいいいいいいいいいいいいいいいい!」 「邪魔者は撤退しますので殺さないでくだせええええええええええええええええ!」 「んっぎゃああああああああああおばけえええええええええええええ!」 「おおおおお俺達からさ、か、監督たちには、西条は大事な用事で遅れるって言っとくから!安心して遅刻していいぞ、じゃ!!」 「逃げます逃げます間髪入れずに俺達は逃げますっ!」 「そそそそそそ、それじゃ、お二人さん、ごゆっくりいいいいいいいい!」  どっぴゅうううう!という効果音が聞こえそうなほどの速度で走り去っていく少年たち。廊下を走るな、という昔ながらの注意もなんのそのだ。  あたしは渋い気持ちになった。いくらなんでもビビりすぎではなかろうか。そして、それっと殺さないでくださいとか言ったのは誰だ。おばけって叫んだのはどいつだ。あいつら、あたしを何だと思っているのか。 「さ、流石は薫子様……!」  そして教室に残っていた女子たちでさえ、何やら驚きと憧憬の目であたしを見ているのは気のせいか。 「やっぱり噂は本当だったのね。薫子様って、ものすごくドS気質だから、昔からドM系男子をひきつけてやまないって……!私達もあれくらい強くなってみたいもんだわ!」 「うんうんうん!女王様ってかっこいいよね!」 「……もしもーし?」  どうしよう。クラスの女子たちまでも、あらぬ性癖を開花させてしまっているような気がしないでもない。そして、目の前の聖樹は泡ふいて倒れそうな顔をしている。イケメンもかたなしだ。  なんにせよ、ここでお話するのはあまりにも人目に付きすぎる。というわけで、あたしは彼の腕をがしっと掴むと、教室から出て行くことを選択するのだった。 「とりあえず、場所移動するわよ。ここじゃ目立ちすぎるし」
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