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「サッカーの……試合の初期陣形さ。簡単に説明すると、フォワードの人数ってのはルールで厳密に決まってるわけじゃないのね。ワントップで置くところと、極端な話ファイブトップでずらっと並べるなんて陣形もないわけじゃなくて。……ただ、一番オーソドックスなのは、ツートップかスリートップなんだよな。で、うちはフォワード二人並べてのツートップで基本的に動かしてた。勿論、ベンチの奴と交代することもあるんだけど」
それが難しくなっちゃってさ、と彼は頭を掻いた。
「俺が頑張んなきゃ、頑張んなきゃって……今年に入ってからも正直余裕とかゼロで。勿論恋愛なんて考えるどころじゃなかったから、クラスの女子も顔と名前が一致するのが精々だったというか。元々、人の容姿ってあんまり拘らないタイプではあるんだけど、余計女の子のことなんて見てなかったというか」
「……じゃあ、どうして北部さんを?」
「って思うよな。……あ、言っておくけど、北部さんは俺の気持ちなんか知らないし、付き合ってなんかないから。北部さんには、余計なこと言わないでくれよ?もう噂になっちまってるから、知ってるかもだけど」
「言わないわよ、別に」
周りの子たちも過剰ガードしているし、アレが続く限りはそうそう知ることもないだろう。勿論、時間の問題ではあるだろうが――なんてことは心の中だけで。
「俺、男とか女とか、恋人とか友達とか関係なく……一生懸命なヤツが、好きなんだ」
聖樹は。あたしが心のどこかで予想していたことを、ストレートに告げてきた。
「北部さんは、自分のミステリー作品を書くために、一生懸命サッカー部のみんなに聞き込みしててさ。俺も、北部さんから取材っぽいのを受けて。……その時思ったんだ。この子は、自分の作品を書くことに全力投球してるなって。真剣になってる姿、めっちゃかっこいいなって。スポーツも小説もおんなじなんだ。自分に勝つために頑張るって意味じゃ、彼女もアスリートみたいなもんだ。……俺達の練習や、想いや、言葉を受け止めて、彼女はどんな話を書くんだろう。書いてくれるんだろう。そう思ったら、どんどん気になっちゃって。この子なら、俺のくだらない悩みも真摯に受け止めてくれそうだなって」
気づけば、好きだった。
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