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人の口に戸は立てられないとはよく言ったものである。こうして普通に教室で授業の準備をしているだけで、嫌でも聞こえてくる声といったら!机に向かったまま、イライラと貧乏ゆすりをしてしまう。確かに、超絶美人で何でもできるお金持ちのこのあたしがフラレるなんて!というのはとんでもないびっくりニュースかもしれないが。だからって本人がいるところでひそひそ噂しなくてもいいのではないか。
――あんたらの中に何人パパの銀行使ってる奴がいるのかしらね!あんたらなんぞパパに言いつけたらギッタギタのメッタメタにしてやれなくもないんだから、多分!
自分で制裁できないのが憎たらしい。ぐぬぬぬ、と拳を握っていると、ぱふ、と頭に柔らかい衝撃が来た。
「おう、荒れてますな、薫子殿!」
「……ジュリ」
高校二年生にもなって、ふわふわのツインテールをしているクラスメート、南田ジュリ。小柄で目が大きく、ロリ可愛いを地で行く彼女は、私と歩いていてもけして見劣りしない人物だった。お嬢様オーラを振りまいて歩くあたしにけして物怖じしない、度胸のある少女だとも言う。
「この間からずーっとひそひそひそーって同じ話ばっかりされてるもんね。なんともメシウマ……じゃなかった、みんなも配慮がないなって思ってたんだ。だって薫子ちゃんもすっごく傷ついてるもんね、ショックなんだもんね!それなのにみんな面白がって、本当に酷いよね!」
「今メシウマって言いかけたでしょアンタ!つか、あんたが一番面白がってるように見えるのは気のせいじゃないわよね!?」
「気のせい気のせい!ダメだよ薫子ちゃん、被害妄想強くなっちゃ!」
誰のせいだと思ってんねん、と腐りたくなるあたし。まあ、こいつが愉快犯であることなど今に始まったことでもないのだが。
「……笑いたければ笑いなさいよ。何でフラレたのか、あたしもさっぱりわかんないんだから」
ふんす、と鼻息荒く言い放つ。
もしも、西条聖樹が好きだと言った相手が、あたしと同等のスペックを持つ女なら。そうそれこそ、医者の娘の才色兼備お嬢様!だとか言われたら、自分も多少は受け入れたのだ。そりゃあ悔しいという気持ちも拭えなかっただろうが、きっと聖樹の好みはああいうタイプだったんだろうな、くらいの割り切り方はできたことだろう。
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