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「ええ、そうなの。なんじゃそりゃ、なのよ。自分でも!」
一気に吐き出したら、少しだけ胸の内が軽くなったような気がした。ははは、と軽く笑う聖樹は、あたしの言葉を笑っているようには見えない。少なくとも昔、あたしと愛弓の交換ノートを嘲った男子たちとはまったく違う顔をしていた。
一生懸命な人間が好き。そう言う彼があの場にいたらきっと、あたしたちのノートを笑ったりしなかったのではないだろうか。
むしろ、人の頑張っていることを笑って連中をとっちめて、味方してくれたかもしれない――なんて。流石にそこまで想像するのは、妄想がすぎるというものだけど。
「……あんた、北部さんが一生懸命なのがいいって、そう言ってたでしょ。……あんたのサッカーのチームメイトでも、北部さんでも。人が一生懸命やっている人を馬鹿にするやつが目の前に現れたら、どうする?」
「え?そりゃ、怒るよ?場合によって殴っちまうかも。俺が一番嫌いなのは、人の努力を笑う奴だからな」
即答だった。
ああやっぱり、とあたしは思う。なんだかんだあたしの目に狂いはなかったというわけだ。それを、恋敵を通じて知るなんて、なんとも皮肉な話だけれど。
「……あたしね。正直、部活とかちょっとバカにしてたの。将来その職業につく奴ばっかりじゃないのに、こんな高校生の部活にマジになって意味なんかあるのかなって。だから今まで、部活に入ったりとかしてこなかったんだけど」
そう考えれば、聖樹にフラレて当然だったのかもしれない。もう少しで自分は本格的に、彼が一番嫌う人間になり果てるところだったのだから。
「でも、そういうのはもうやめるわ。確かに家はお金持ちだけど、それはあたしの努力で得たものじゃないし。……一番カッコ悪いのは、人が一生懸命やってることを馬鹿にするやつ。あんたの言う通りよ。それを……やっと思い出した」
「そうか」
「うん。でもって……あたしももう一回、本気でやってみたいことができたかもしれないの。だから」
こんな言い方をするのは卑怯だとわかっている。今更どう転んでもきっと自分は、稀美に勝つことなんてできないだろうということも。
それでも、自分は。
「だから。……それであたしがちょっと魅力的になったら。……もういっぺん真剣に告白、受けてくれる?」
まだチャンスがあるかもと信じたいのだ。
自分も稀美のように、素敵な女の子になれるチャンスが。振り向いて貰えるチャンスが。
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