3人が本棚に入れています
本棚に追加
稀美は泣きそうな顔であたしに告げる。もしもあたしが少女漫画のヒロインだったなら、稀美はきっと“おーほっほっほ!ざまあないですわね、愛しのあの方はあたくしのものですわよ!”とか高笑いをキメているところである。
ところがどっこい、あたしの恋敵になってしまったことを彼女は泣きたいほど悲しんでいるし、残念ながらどっちかといえば悪役令嬢が似合うのはあたしの方である。悲しいかな、自分でもそれくらいの自覚はあるのだ。
「あのねえ。本気でそれが嫌だったら、なんであたしはコレ握ってここに立ってるのよ?あんたが恋敵だってこと、あたしの方は最初から知ってたのよ?」
ほれ、とあたしは右手の入部届を彼女の眼前に突き出して見せる。
「あんたがどうとか関係ないから。ただ、小説もう一度ちゃんと書いて、マジで公募とかやってみるのも面白そうだと思ったから!それだけなんだから!」
「で、でも………」
「あたしに火をつけたあんたにも責任があるんですからね。ちゃんと小説の書き方とか、コツとか、いろんなこと教えなさいよ?その……公募のマナーとか暗黙の了解とかも、全然知らない、し。講座とか、文法とかも、その……あの……」
言っているうちに、段々と恥ずかしくなってくる。これじゃ完全にツンデレ悪役令嬢もいいところではないか。
――ううううううう、あ、あたしってこういうキャラだったかしら……?
なんもう、色々と自信がなくなってくる。あたしがボソボソと呟いていると、何やら稀美がすっかり静かになっているではないか。
「す、素敵……」
「はい?」
「や、やっぱりカトリーヌ様。東野さんはリアルカトリーヌ様だぁ!握手してくださいっ!生きててくれてありがとうございます生まれてきて本当に良かったぁぁぁ!」
「そこまで!?」
彼女は私の手をぶんぶんと握って振った。どうやら彼女の推しキャラのカトリーヌ様とやらはツンデレキャラらしい。絶対悪役令嬢系だろ、とあたしは心のなかで思ってしまった。後で彼女の好きな漫画とやらについて真剣に調べてみなければなるまい――マジで悪役令嬢だった場合、嫌な予感しかしないわけだが。
何にせよ、本当の本当に変な子、である。
あたしに敵意を向けられていることにも気づかず、自分が人様の恋の渦中にいたことさえ最近まで知らず。そうかと思えば人様を推しに見立てて喜んでいるという。鈍いわ変人だわ、なんというか想像していた以上に愉快な性格をしているようだ。
そしてふと、あたしは疑問をぶつけてみることにしたのである。
ズバリ、彼女は西条聖樹をどう思っているのか?ということだ。
最初のコメントを投稿しよう!