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先日それとなく尋ねた時、あたしもボカしていたし、本人もまさかそんな噂が流れているなんて思ってもみなかったことだろう。今なら流石に、もうちょっと真剣な答えが訊けるのではなかろうか。
「その、北部さん?西条くんのことなんだけど。貴女と西条くんが付き合ってないことは聞いたけど……貴女の方はどう思ってるわけ?あっちは結構マジみたいよ?サッカーで忙しいのと、そんなに話したことがないのとで告白を躊躇ってるようだけど……」
世の中には、リアルのイケメンに興味がないタイプもいる。
彼女のようにわかりやすいオタク女子なら、二次元の世界の男しか愛せないなんてこともありうることだろう。彼に好意を持たれていると知った今、北部稀美はどうするのか。
「う、うーん……」
すると稀美は、腕組みをして本格的に考え込んでしまった。
「西条くんはめちゃくちゃカッコイイし、好きだとは思うけど。それは憧れてるから好きって方向で、恋愛感情じゃないというか。もちろん、もっとよく知っていけば、その気持ちも変わるかもしれないけど……私、西条くんのことよく知らないし。よく知りもしないのに好きも嫌いも言えないよ」
「そ、そう……」
なんとも真っ当な答えが返ってきてしまった。あたしと聖樹の恋のがよほど常識外れのような気がしてしまう。
いや、世の中には一目惚れなんて珍しくもなんともないけれど。相手の性格込みで好きになる、のが本物の恋愛なのは間違いあるまい。少女漫画のヒロインは大抵そういう恋をするものだから尚更に。
「それに、解釈違いなんだよね」
そして、稀美は真剣そのものな顔でとんでもないことを言ってきた。
「私、夢小説とか絶対読めないタイプなの。ヒロインと主人公とか、キャラ同士が恋愛をするのをヨコで応援してるのが一番好きなわけ!私のポジションは、キャラたちに恋愛感情を向けられないことが大前提なの、わかる!?だから悪役令嬢に成り代わって自分がどっかの国の王子様に溺愛されたら間違いなく萎えちゃうタイプと言いますか!」
「つ、つまり?」
「推しの彼氏を寝取る女になるとか絶対嫌ぁぁぁぁぁ!」
シャウトする稀美、ずっこけるあたし。
「だからね、東野さんっ!」
がばっ!と彼女は再びあたしの手を握って、キラキラした目を向けてくる。あたしの手の中で、入部届がぐしゃぐしゃになるのもお構い無しで。
「私、めちゃくちゃ応援してる!」
「はい?」
「東野さんが西条くんと付き合えるの、本気で応援する!お願い東野さん、全力で西条くんを振り向かせて!推しが素敵なイケメンに愛されるのすっごく見たいの!でもって私を、見守りポジションのモブにさせて!ほんとお願いしますっ!!」
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