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ところがどっこい。彼が名前を挙げた北部稀美という少女は、お世辞にも美人とは言えないタイプなのである。そろそろ登校してくる頃か、と思って教室のドアの方を見つめれば。
「おはよう、みんな。……あれ、どうしたの?」
「あ、いや……大したことないんだ、ははは」
「そう?」
噂をすれば影。ご本人登場だ。ひそひそ喋っていた連中が、一瞬にして黙り込んだ。何よ、とあたしはよりご機嫌ナナメになる。あたしの前では遠慮も何もなく噂を喋りまくっていたくせに、彼女にはなんで配慮しようとすんのよ、と。
「変なのー。まあいいけど。みんな最近楽しそうだし」
ぽけぽけぽけーっとしたオーラで話す稀美は、あたしよりだいぶ背が低い。あたしの身長が170近いというのもあるが、それを抜いても彼女は小柄なのだ。それでいて、横幅は結構なもの。ぽっちゃり系、というよりもはやおデブちゃんに近いほどではなかろうか。
それでいて、分厚い眼鏡に時代錯誤のおかっぱ頭なのである。顔だけ見れば取り立ててブスではないが、お世辞にも美人とは言えないだろう。そのくせ。
「あ、そうだ高橋さん、この間の……ひゃああああああああああああああああ!?」
どんがらがっしゃん。
あたしが見ている目の前で、彼女は派手に転んだ。どう見ても、教室の何もない場所で。それで、眼鏡がふっとんだらしく“めがね、めがねどこ……?”という、乙女ゲーヒロインのようなことをやらかしている。
ちなみにああいうゲームのヒロインは、眼鏡を外したら美少女というのがテンプレだろうと思われるが。残念ながらというべきか当然というべきか、稀美の場合は眼鏡を外しても地味子のままである。周囲の生徒たちが、慌てたように助け起こしているのを見て、あたしはため息をつくしかないのだった。
「……なんで!?なんでよジュリ!なんであたしがアレに負けんの!?」
「わ、私にそんなこと言われても」
「ふおおおおおおおお許せない、許せないわ!何か秘密の契約があるのよそうに違いないわ。絶対秘密を暴いてやるんだからああああああ!」
許すまじ西条聖樹。
許すまじ北部稀美。
奴らを調べつくして、あたしの方が優れていることを証明してやる。決意したあたしは、怒りの炎を燃やして宣言したのだった。
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