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女の子の友達だって、ちょっと自尊心を擽ったり親切にしてやれば一発だ。人身を掌握し、味方を増やすなんぞお手の物。その気になればいくらでも、面倒な掃除当番を代わってもらったり、やりたくない係や委員会を肩代わりしてもらうように仕向けるくらいザラだった。
お金も、将来も、才能も、美貌も。
全てに恵まれた完璧超人である自分に、不可能なことなんてない。男だってそう。イケメンならば彼以外にもいるし、なんなら眼の前にいる鈴木と田中だって顔は悪くない。あたしが“付き合いなさい”と一言言えば、喜んで犬のように尻尾を振ってついてくることだろう。
なんなら、ただぼんやり待っているだけで十分だ。昨日だって二人の男から告白されて断ってきたばかりなのだから。
そう、何も西条聖樹に拘る理由などない――本来ならば。
「……あいつが」
苦い気持ちを思い出していた。
初めてあの男を意識した、あの日のことを。
「あいつが、筋金入りのサッカー馬鹿だからよ。ムカつくの、心の底から」
「それは、どういう?」
「去年の暮れのことよ。あいつに、一緒に帰ろうって誘ったら断られたの!最寄り駅が同じだから丁度いいって教えてあげたのに!まだサッカーの居残り練していくから無理だって!」
「え、ええええ……?」
わけがわからない、と顔を見合わせる鈴木と田中。なるほどこの感覚は、庶民共には分かりづらいことなのかもしれないが。
「あいつは、あたしの頼みを断ったの!あたしよりサッカーを選んだ、それが許せなかったのよ!」
こんな美少女とお喋りしながら帰れるなら役得のはず。あたしだって配慮して、サッカー部の活動が終わるところを待っていてやったのだ。それなのに、彼ときたらまだ居残り練があるからと、待っていたあたしの気持ちも無視して断ってきたのである。
それはまさに、あたしの気持ちが、サッカーとおう存在に負けたも同然ということで。
「手に入らないものなんて、今まで何一つなかった。でもあいつは違ったの!腹が立つじゃない、このあたしが欲するものを手に入れられないなんて!あいつを……サッカーよりあたしの方に振り向かせてやりたくなったのよ!それだけ!」
そう、他に動機なんてない。
彼のことが気になる理由なんて、はっきり言ってそれだけ。これは、彼とあたしの勝負というより、あたし自身のプライドの問題なのだ。
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