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妖精レヴはいつも一人ぼっち。彼に友達は一人もいません。
何故ならレヴは、夢の世界で暮らす妖精だったからです。
夢の世界にやって来た子供と、どれほど仲のいい友達になれても、子供は目覚めると同時にレヴのことを忘れてしまいます。夢の中の出来事だからです。
だからレヴのことは誰も知らないし、子供が再びレヴのいる夢の世界に来たとしても「初めまして」からのやり直し。
ところが、いつの頃からだったでしょうか。
「わあ! もしかして、君が夢の世界の妖精レヴ? 初めまして! それとも……また会えたね、かな?」
どうしてか、レヴのことを知っている子供が現れ始めたのです。それはレヴにとって「初めまして」の子供であったり、「また会えたね」の子供であったり。
「どうして僕のことを知っているの? どうして僕のことを憶えているの?」
嬉しくも不思議に思ってレヴが尋ねたのなら、子供達は答えます。
「だって、本で読んだもの! 夢の中で妖精に出会ったのなら、それはレヴって子だって」
「レヴは夢の中でしか会えなくて、会えたとしても、僕達は夢が終わっちゃうとレヴのことを忘れちゃう……だから僕、レヴのこと憶えてるわけじゃないけど、もしかして前に会ってたのなら『また会えたね』でしょ?」
「その本はね、昔病気だった女の子が書いたものなんだって。その子は何日も寝ちゃった時があってね、その時に不思議な夢を見たのを憶えてて、それをもとに本を書いたんだって」
――まさしくその本は、かつてレヴが数日間に渡って遊んだ少女が書いたものでした。
普通であれば、目が覚めた時にレヴのことを忘れてしまいますが、長く夢を見ていた彼女は、目覚めた時にぼんやりレヴのことを憶えていたのです。ただその記憶もすぐに消えそうになっていたため、慌てて彼女はレヴとのことを日記に綴り、忘れないようにしたのです。
そしてそれをもとに、大人になった彼女は、一つの物語を世に出したのでした――いまでは世界中の子供達から愛される物語を。
一人ぼっちだったレヴ。誰にも憶えていてもらえなかったレヴ。存在すらも知られなかったレヴ。
けれどもいまでは、みんながレヴのことを知っていました。
あの少女にはやはりもう会えないけれども、彼女のおかげで、レヴは一人ぼっちではなくなったのです。
子供達みんなが友達です。初めましてでも、憶えていなくとも、レヴに出会った子供達は尋ねます。
「初めましてかな? また会えたねかな?」
その質問に、いつもレヴはにこにこと答え、寂しさを忘れて今夜も遊ぶのでした。
【終】
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