夢の世界の妖精レヴはみんなの友達

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「君は目を覚まさないの? ずっと寝ているの?」  夢の中で何日も遊び続けて、ついにレヴは少女に尋ねました。羽の生えたブランコで遊んでいる時でした。  レヴの隣でブランコをこぐ少女は首を傾げて、 「うーん、よくわかんない! でも目を覚まさなくても、私、別にいいよ。だってここ、楽しいんだもの! 目を覚ましても、私、ずっとベッドの上で、こうやって遊べないし」  少女はぐんぐんとブランコを大きくこいでいきます。 「こうやって遊ぶの、私、初めてなの! いつもお外に出ちゃいけないって看護師さんに言われるし、こっそり外に出られても……こんな風にブランコこげないもん!」  そこでレヴは気付きました。いままで出会ってきた子供に比べ、少女は痩せていて、肌も青白いことに。  思い切って、レヴは聞いてみます。 「君は病気なの?」 「そうだった! そうだったの! ここなら全然苦しくないから、忘れちゃってた! 私病気でね……時々胸が痛くなることがあったの。そうそう、ここに来る前も、夜、胸が苦しくて……でも、いつの間にかここに来て、苦しいのもなくなってた!」  レヴは、どうしてこの少女がずっと夢の中にいるのか、気付きました。  きっと少女は、病気で目を覚ますことができずにいるのです。だからずっと夢の中にいたのです。  少女は続けます。 「こうやって元気なら、私もみんなみたいに学校に行けるのにね。それでたくさん勉強して……私、本を書く人になりたいの! 病院って退屈なんだけど、本があるととっても楽しくてね……」 「――それじゃあ、こっちにきて! 追いかけっこしようよ!」  このままではよくないと、レヴは思いました。  このままではきっと、彼女は学校に行けないまま。なりたいものになれないまま。  それどころか、夢を見続ける身体はきっと弱ってしまって――。  だからレヴが走って走って、夢の端っこまで走ってたどり着いたのは、一つの扉でした。 「この扉、なあに?」 「夢の終わりの扉だよ。ここから外に出たら、君は目を覚ませるんだ」  普通の子供は、朝になれば自然と目覚め、夢の世界からいなくなってしまいます。しかしこの扉から外に出たのなら、朝が来なくとも夢が終わり、目を覚ますことができるのです。  少女は口を尖らせました。 「夢が終わっちゃうの? いやよ、ここはこんなに楽しいのに……」 「でもここじゃあ、学校に行けないし、大人にもなれないよ」 「夢の世界ならなんでもできるんでしょ?」 「何でもできるけど、全部夢なんだ」  レヴがそう言ったのなら、少女は俯いてしまいました。やがてつまさきでいじいじ地面をひっかきながら。 「私、ここが本当に楽しいの。だって目を覚ましても……いいことないんだもの。ねえ、友達なら、わかってくれる?」  ――レヴだって、少女と遊ぶのはとても楽しいと感じていました。少女は他の子供と違って、朝になってもいなくならない友達です。できることなら、ずっとここにいてほしい。けれども。 「このままだと、君によくないから。僕は君のこと、大事な友達だと思ってる。だから……」  その言葉に、少女は更に俯いてしまいました。  もしかしたら、嫌われたんじゃないかと、レヴは一瞬思ってしまいました。それでもいいと、口を堅く結びます。自分のことを嫌いになったのなら、少女は夢の中から出ていくでしょう。  そして……少女が目を覚ましたのなら、自分と友達になったことは、自分のことは、忘れてしまうのです。  だから少女のために、何でもできました。お別れが寂しくても、自分のことを忘れられてしまうのが悲しくても、嫌われてしまうのが怖くても、レヴは少女のためのことを選んだのです。  長いこと少女は俯いていましたが、ようやく顔を上げてくれました。 「わかった。あなたは友達だもの。私の初めて友達だもの。ごめんね、意地悪なこと言って……」  そうして扉のドアノブに手を伸ばしたのです。  その瞬間、レヴは「やっぱり待って」と声を上げるのを我慢しました。それでも声が出そうになったところで、ついに彼女は扉を開けて、その向こうへと行ってしまいました。  これほど友達を大事に思ったのは、レヴにとって初めてのことでしたが、これでまた、彼は友達を失いました。  少女が再び、レヴの前に現れることはありませんでした。また夢の中で出会えたとしても、きっと彼女は忘れているだろうからとレヴは考えますが、期待せずにはいられません。  ただ、あの少女と出会って十年以上が経った頃、ついにレヴは諦めました。  だって彼女は、きっと大人になっているだろうから。  レヴのいる夢の世界に、大人は来られないのです。ここは純粋な心を持った子供しか来られない場所だったのです。
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