竜と宝

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 戴冠式の前の日、シェイリにダルピオスは呼ばれた。 「妾が王になったらというのをそなたは笑わなかったな」 「最初からお前は王のように偉そうだった」 「そうか、ただ、必死だっただけなんだがな。そなたとの約束が妾を支えてくれた。さ、宝は何がいい? 黄金、宝石、何でも望むがいい」  約束の品がもらえるというのに、なぜか、心は弾まなかった。  シェイリは城に戻ってから、磨かれ、あの汚かった子供と同じ子供には見えなかった。黄金の髪がキラキラと輝いている。 「もう、要らぬ。ここは竜の住む場所ではない。住処に帰る」 「何を言う。何でもいいのだぞ。望む宝は何だ」 「アマギスの宝といえば、お前のことだろう。共に来い。黄金の髪を持つ王よ」  明日、王になるというのに馬鹿なことを言ってしまった。短い間なのになぜか、楽しかった。退屈することがなかった。その時間が無くなるのが惜しかった。それだけだ。  シェイリは目を見張り、それから、笑った。 「ならば、待て。人の時間など、お前にとっては短いものだろう。ほんの少し待て。妾は約束を破らぬ」  シェイリはダルピオスの前脚に抱きついた。 「文字は読めるか」 「読める」 「では、手紙を送るぞ。忘れるな。妾は約束を守る」 「わかった。困ったことがあれば呼べ」  シェイリの戴冠式の日、パレードの上空をダルピオスは何度も何度も回った。 「我、ダルピオスはシェイリの守護者なり」  そう宣言して、ダルピオスは元の洞窟に戻った。  呆れることに十日も立たないうちに手紙が放り込まれた。ダルピオスが読みやすいようにという配慮か、大きな木の板に書かれた手紙だった。手紙の最後にはアマギス王、シェイリの署名があった。  それから、一年に一回は手紙が来た。助けを求める気がないのか、統治に苦労する話も隣国との小競り合いがあった時も過去の話として書かれていた。結婚した、子供が生まれたという連絡も来た。あの子供がと思うと、おかしくて仕方がなかった。王の紋章に竜を追加したという手紙には何だか、くすぐったいような気がした。
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