0人が本棚に入れています
本棚に追加
人の時間は短い。
王配が亡くなったという手紙は文字が震えているようだった。そこではじめて、シェイリが自分で書いていることに気づいた。次の手紙には退位して、息子に王位を譲ったとあった。
その次の手紙はなかなか来なかった。
毎日、毎日、人の気配を探った。一日、一日をこんなに長く感じたことはなかった。
城に飛んで行こうかとも思った。
もし、シェイリが手紙を書けない状態だったら。そう考えると、ダルピオスは勇気が出なかった。
竜のくせに。長く生きてきたくせに。
今まで蓄えてきた宝物を見ても嬉しくなかった。黄金を見ると、シェイリの髪を思い出した。
思い出が宝物なのかもしれない。
覗き込んだ寝顔は可愛かった。
「出でよ、出でよ」
人の気配としわがれた声にダルピオスは飛び起きた。
そんなはずはない。知っている声と違う。そう思っても、気は焦った。
息を止めて、洞窟から顔を出す。
小さな老女が腰に手を当て、立っている。
「宝を渡しにきた」
しわがれた声でも偉そうなのは変わっていない。
「シェイリか」
老女はうなずいた。
「ダルピオスよ。今日から妾はここで暮らすことにした」
「王がこんな洞窟で暮らすというのか」
「元王だ。あの時、身一つでも眠れたんだ。大丈夫だろう。それに、今回は供の者が荷物を運んでくる」
美しかった金の髪は白髪になっている。
ダルピオスの視線にシェイリは気づくと、笑った。
「黄金で無くなったが、許せ」
「いや、白金のようだ。待った甲斐があった」
ダルピオスの目にはシェイリが輝いて見えた。
「口が上手くなったな」
ダルピオスがそっと前脚を伸ばすと、シェイリは抱きついた。
最初のコメントを投稿しよう!