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「出でよ、出でよ。竜よ、貪欲の竜よ。妾に力を与えん」
女性の声は小さかった。それでも、ダルピオスは聞き逃すことはなかった。長くこの土地に暮らし、時には人と関わることもあった。だが、貪欲の竜と呼ばれるとは思わなかった。
のそりと立ち上がれば、背中に積もった土に生えていた木々がボロボロと落ちた。長い間、じっとし過ぎたかもしれない。体を揺すって、残りの土を落とした。
「我を呼ぶものは誰だ」
久しぶりに人間の言葉を喋ったら、声が掠れてしまった。
「おお、妾はアマギスの王女、シェイリ・ロイ・アマギスなり」
アマギスという国の名は聞いたことがなかった。人の寿命は短くて、国もすぐに生まれたり、消えたりする。眠っている間にできた国なのだろう。
「妾に力を貸した暁には黄金と宝石を与えよう」
黄金と宝石。その言葉にダルピオスの尻尾がピクリと動いた。
どれ、シェイリとやらの顔を見てやろう。
ゆっくりと声のする方向、洞窟の入り口に向かって、歩いた。外は夕暮れのようだ。赤い光に染まっている。
顔を出す前に人の気配を探った。たまに討ち取ろうとする馬鹿な人間がいる。もちろん、負けはしないが、毒矢などは後で痒くなってたまらない。
人の気配は二人のようだ。金属の音がしないということは甲冑を着た者はいないということだ。
安心して顔を突き出し、尋ねた。
「さあ、どんな力を望む」
その瞬間、吹き出しそうになった。
吹き出しただけで、遠くに飛んで行ってしまいそうな小さな子供が立っている。王女とはとても思えない粗末な服、顔も長い髪も汚れて、ドロドロだ。
その隣りには大人の女性が倒れている。どうやら、ダルピオスの顔を見て、気を失ったらしい。
王女は恐れることもなく、ダルピオスの顔を見た。
「アマギスの王を殺した反逆者たちから妾を守れ。さすれば、妾が王となった時に宝を授けよう」
もう、すでに王であるかのようにシェイリは言い切った。
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